2019.12.16 03:26「ナポレオンとトルストイ『戦争と平和』」24 アンドレイ公爵⑭ アンドレイの前にひざまずいたナターシャは、彼の手を取り接吻し許しを請う。「『おゆるしくださいませ!』と顔を上げて、じっと彼を見つめながら、彼女はささやくように言った。『あたしをおゆるしくださいませ!』 『あなたを愛しています』とアンドレイ公爵は言った。 『おゆるし・・・』 『何...
2019.12.14 23:20「ナポレオンとトルストイ『戦争と平和』」23 アンドレイ公爵⑬ アンドレイは、隣の台で苦しそうにもだえ泣いている男がアナトーリと知って、彼と自分が何かによって緊密に結びつけられていると感じる。そして、彼と自分の結びつきが何かを考える中で、思いがけない思い出がよみがえる。「彼は、1810年の舞踏会で初めて見た、あの首も腕も細い、いまにも有頂天...
2019.12.13 23:51「ナポレオンとトルストイ『戦争と平和』」22 アンドレイ公爵⑫ ボロジノの会戦の前日、アンドレイは翌日の戦闘に対する命令の受領も済ませ、夕暮れにはもう何もすることがなかった。「明日の戦闘が彼のこれまで参加したすべての戦闘のなかでもっとも恐ろしいものになるはずであることが、彼にはわかっていた、そして生まれてはじめて、自分は死ぬかもしれぬという...
2019.12.13 01:10「ナポレオンとトルストイ『戦争と平和』」21 アンドレイ公爵⑪ トルコにいたアンドレイは、1812年、ナポレオンとの開戦の報が届くと、クトゥーゾフに西部軍への転属を依頼する。そしてその途中、実家に立ち寄る。そこで、生まれて初めて父親を非難する。「彼は自分の心のうちをさぐってみたが、父を怒らせたことに対する後悔も、生まれて初めて父と口論したま...
2019.12.12 00:41「ナポレオンとトルストイ『戦争と平和』」20 モスクワ遠征③ 退却軍はロシア軍に追撃され、コサックや農民に奇襲され、そのうえ11月になると冬将軍が加わり、飢餓と寒気による死傷者が続出した。とりわけドニエプル河とベレジナ河の渡河のさいには、今や圧倒的に兵力と火力に勝るロシア軍は、衰弱したフランス軍に襲いかかった。ベレジナ河の惨状をバーデン辺...
2019.12.11 01:31「ナポレオンとトルストイ『戦争と平和』」19 モスクワ遠征② 9月15日、モスクワ入城。ロシア軍は聖都を放棄した。住民の多数は脱出していた。ナポレオンを迎えたのは、不気味な静けさ、そして火災であった。モスクワ司令官ラストプチンがモスクワを放棄するさい放火を指示していたことは、ナポレオンのまったく予期せぬことであった。クレムリンにまで迫る火...
2019.12.10 03:23「ナポレオンとトルストイ『戦争と平和』」18 モスクワ遠征① 対イギリス大陸封鎖令に背くロシアを叩くべく侵攻したナポレオンは、みずから総司令官として前線で指揮を執る。ナポレオンはロシア皇帝が本営を置いていたヴィルナでの会戦を予期していた。しかしアレクサンドルは戦わずしてドリッサに退却した。ナポレオン軍が迫ると、この大要塞を捨ててヴィテプス...
2019.12.08 23:49「ナポレオンとトルストイ『戦争と平和』」17 アンドレイ公爵⑩ アナトーリの「愛の手紙」を偶然目にしてしまったソーニャは、1年も一人の人(アンドレイ)を愛してきて、三度会っただけのアナトーリに気持ちが移ってしまったナターシャを非難する。しかしナターシャの気持ちは変わらない。「『三日なのね』とナターシャは言った。『あたしは、もう百年も彼を愛し...
2019.12.07 01:14「ナポレオンとトルストイ『戦争と平和』」16 アンドレイ公爵⑨ あれほどアンドレイの帰りを待ちわびていたナターシャがアナトーリ・クラーギンに恋してしまったのだ。たしかに、彼は「モスクワじゅうのご婦人がすっかり血迷わされてしまいましたよ」と言われるような「驚くほど美貌の副官」。オペラ劇場でナターシャを見かけたアナトーリは彼女に夢中になる。幕間...
2019.12.06 04:01「ナポレオンとトルストイ『戦争と平和』」15 アンドレイ公爵⑧ ナターシャへの想いをアンドレイはピエールに打ち明ける。ピエールもナターシャのことを愛していたのだが。「アンドレイ公爵は、ふたたび人生の春を迎えたような、喜びに輝く晴れやかな顔をして、ピエールのまえに立ち止まると、相手の暗い表情に気づかずに、幸福のエゴイズムをむきだしにしてにっこ...
2019.12.05 07:44「ナポレオンとトルストイ『戦争と平和』」14 アンドレイ公爵⑦ ロストフ邸の庭の並木道を馬車に揺られて、玄関に近づいていくアンドレイは、木々のあいだから明るい叫び声をあげながら馬車の行く手を先を争って足りぬけてゆく娘たちの群れを目にする。先頭を切って馬車の方へ駆け寄ってきたのがナターシャ。彼女は、見知らぬ男と知ると、アンドレイをろくに見もせ...
2019.12.04 01:00「ナポレオンとトルストイ『戦争と平和』」13 アンドレイ公爵⑥ アンドレイの変化を明瞭に示す出来事がある。「樫の木」の話だ。彼は、1809年の春、息子のリャザンの領地へ出かけるが、行きと帰りにこの樫の木を見る。その見方がまるで異なるのだ。まず行きに見たときの印象。「道はずれに一本の樫の木が立っていた。おそらく、林をなしていた白樺より十倍は年...