2019.05.24 05:05夏目漱石と20世紀初頭のロンドン16 「文明開化」批判② 『吾輩は猫である』(明治38年【1905】1月1日~明治39年【1906】『ホトトギス』に断続掲載)は夏目漱石の処女小説だが、漱石は既にこの小説の中の数カ所で文明開化批判を展開している。苦沙弥(くしゃみ)先生の家は落雲館中学校に接しているが、その学校の生徒が先生宅に野球のボール...
2019.05.23 01:13夏目漱石と20世紀初頭のロンドン15 「文明開化」批判① 「西洋の理想に圧倒せられて眼がくらむ日本人はある程度に於て皆奴隷である」 これは、明治40年(1907)年1月1日、雑誌『ホトトギス』に掲載された『野分』の有名な一節。『野分』は、堕落する当時の青年たちへの警鐘、理想や道の必要性、金権力へのなどがテーマ...
2019.05.21 23:21夏目漱石と20世紀初頭のロンドン14 カール・マルクス 漱石が日英同盟締結に浮かれ騒ぐ同胞を「あたかも貧人が富家と縁組を取結びたるうれしさの余り鐘太鼓を叩きて村中をかけ廻るやうなもの」と揶揄したは、1902年3月15日の義父中根重一宛書簡の中でだが、その中でこんなことも書いている。「欧洲今日文明の失敗は明かに貧富の懸隔甚しきに其因致...
2019.05.20 06:02夏目漱石と20世紀初頭のロンドン13 自転車 イギリスにおける自転車の歴史は18世紀末頃にまで遡るというが、自転車も1800年代の中ごろまでは特に人気のある乗り物ではなかった。1870年代にまず男性の娯楽として新たな関心を集め始め、1885年にスターリーが「ペニー・ファージング」(前輪が後輪よりはるかに大きい)を改良し前輪...
2019.05.19 11:39夏目漱石と20世紀初頭のロンドン12 ドラローシュ「ジェーン・グレーの処刑」 ロンドンに到着して3日後の1900年10月31日、漱石はロンドン塔を訪れる。現在では、ロンドンの数ある史跡の中で最も人気の高い観光スポットとして、連日大勢の観光客が押し寄せているが、漱石が訪れた当時は、観光客も少なく、静かに思う存分想像力の羽根を拡げながら見学を満喫できたことだ...
2019.05.17 12:19夏目漱石と20世紀初頭のロンドン11 「ラファエル前派」 『三四郎』にある場面。広田先生の引っ越しを手伝いに行った三四郎が、やはり引っ越しの手伝いに来た美禰子と出会い、広田先生の所持していた画帖に出ている絵に美禰子が目をとめ、それを三四郎に見せる。「『一寸御覧なさい』と美禰子が小さな声で云ふ。三四郎は及び腰になつて、画帖の上へ顔を出し...
2019.05.16 01:28夏目漱石と20世紀初頭のロンドン10 紅茶 イギリスの食生活の中で、一番豪華なのは朝食だと相場は決まっている。サマセット・モームはこう言った。 「イギリスで美味しい食事がしたければ、1日に3回朝食を取ればいい」 漱石はブレット家(ロンドンでの3回目の下宿)の朝食の献立についてこう記している。今のフランス、イタリア...
2019.05.15 02:06夏目漱石と20世紀初頭のロンドン9 不愉快なロンドン③「しつこさ」 江戸っ子漱石は、文化、人間関係におけるイギリス人のしつこいまでの濃厚さには少々うんざりしていたようだ。「西洋人は執濃(しつこ)いことがすきだ。華麗なことがすきだ。芝居を観ても分る。食物を見ても分る。建築及び飾粧を見ても分る。夫婦間の接吻や抱き合うのを見ても分る。これが皆文学に返...
2019.05.13 23:27夏目漱石と20世紀初頭のロンドン8 不愉快なロンドン②まなざし 漱石の身長は160センチにも足りず、平均的な日本人よりも低め。そんな漱石が、彼より平均で十数センチ以上は高いイギリス人男性の群衆の中にいると、押しつぶされてしまいそうな圧迫感を感じたことだろう。「ステッキでも振り回してその辺を散歩する・・・。向へ出てみると逢う奴も逢う奴も皆んな...
2019.05.12 12:43夏目漱石と20世紀初頭のロンドン7 不愉快なロンドン①霧 自分自身や自分が生きている世界を対象化し、認識するには自分とは異なる他者、文化、世界と触れ合う必要があるだろう。そのような体験を通して、自分や自分が生きる世界を相対化する必要があるだろう。自分の個性を発見するには、兄弟、友人など異なる個性の存在は不可欠だ。自分か生きる生活世界の...
2019.05.11 12:46夏目漱石と20世紀初頭のロンドン6 漱石が留学先のロンドンに到着した11日後の1900年11月8日、一隻の軍艦がヴィッカース社のドック(イングランド北西部,カンブリア県南西部の都市バロー・イン・ファーネス)で進水式を行った。日露戦争の日本海海戦でバルチック艦隊を撃破した東郷平八郎率いる連合艦隊の旗艦「...
2019.05.10 13:56夏目漱石と20世紀初頭のロンドン5 漱石の2年間のロンドン滞在中に起きた大きな出来事と言えばヴィクトリア女王の死。20世紀が始まって間もない1901年1月22日のことである。即位したのが1837年6月20日だから、なんと在位期間は63年7カ月。昭和天皇の62年より長い。そして、このヴィクトリア朝はイギリスの全盛期...