「万の心を持つ男」シェイクスピア7『ハムレット』⑦ハムレットの出国~帰国
自分の前王殺しの場面を再現したかのような「ゴンザーガ殺し」の上演に、国王は身の危険を察知し、先手を打つべく、ハムレットをイギリスに送ってイギリス王の手で殺させようと決意する。そして、ハムレットにポローニアスが殺されたと聞くと、もはや一刻の猶予も置けぬと、ローゼンクランツとギルデンスターンに命じて、ハムレットをイギリスに送らせることにした。ハムレットは船中で、国王の委任状の封を切る。そこに何が書かれていたか?デンマークやイングランドの安寧などありとあらゆる理由を並べ立て、ハムレットを鬼か化け物のような危人物に仕立て上げ、この手紙を読んだらすぐに、一刻の猶予もなくハムレットの首をはねろ、と。ハムレットは、彼の代わりに、この手紙の運び手(ローゼンクランツとギルデンスターン)を即刻処刑すべし、と書き換える。その翌日、船は海賊船に襲われ、ハムレットは捕虜になり、身代金欲しさの海賊の手でデンマークに送り届けられる。デンマークを離れている間にハムレットは自分自身の死をごく身近に感じる体験をしたのだ。それまでは、死というものについてただ至高の中で悩んでいただけだったハムレットは、より具体的に死を体験するような経験をしたのだった。
デンマークに戻ったハムレットは、ホレイシオに迎えられて城に帰る途中、墓掘りが墓を掘りながら頭蓋骨を放り出しているのを目にする。それは彼が小さいときによくおぶってくれた道化ヨリックの頭蓋骨だった。
「哀れヨリック。俺は、こいつを知っていたんだ、ホレイシオ。際限なく冗談をいう男で、すばらしい想像力の持ち主だった。何百回とおんぶしてもらった。それが今では――。思っただけで、吐き気がしそうだ。ここに、俺が数え切れないくらいキスした、あの唇があったんだ。いつもの嘲りはどうした?おふざけは?歌は?みんなをどっと笑わせた冗談の閃きは?この顔を笑い飛ばす冗談の一つも出てこぬか。顎が落ちて、開いた口がふさがらないか。さあ、貴婦人の部屋へ行って喚いてこい。何センチ化粧を塗りたくっても、結局はこうなるんですよって。そう言って笑わせてこい。」
人間の生と死について思いめぐらすハムレット。ホレイシオにたずねる。
ハムレット アレクサンダー大王も土の中ではこうなるのかな。
ホレイシオ そうでしょう。
ハムレット こんな臭いでか。うっ!
ホレイシオ そうでしょう。
ハムレット 我々は土に還れば、どんなひどいことになるかわからぬものだ。ホレイシオ!なあ、気高いアレクサンダーの遺骸も、酒樽の栓になるかもしれぬ。
ホレイシオ それは考えすぎというものです。
ハムレット いや、とんでもない。まともに考えても、理屈ではそうなる。いいか。アレクサンダーが死ぬ。アレクサンダーが埋められる。アレクサンダーは土に還る。土から粘土ができ、その粘土から、なあ、酒樽の栓だってできよう。
この瞑想は、国王、王妃を先頭にやってきた葬列に破られた。きわめて簡素な儀式。「死因に疑わしいところがあり、陛下が慣例を曲げるようにとお命じにならなければ、最後の審判の日まで、祝福を受けぬ土地に埋められたはずです。」と神父が言う。オフィーリアが「自殺」(十戒の「汝殺すなかれ」に反する)した可能性もあると言っているのだ。「厳かな鎮魂歌を歌ったりしては、静かに息を引き取ったほかの人々の葬儀を冒涜することになります。」レアティーズは神父に不満を爆発させる。
「土に埋めろ。その美しく汚れなき体よりスミレの花よ、咲き出でよ。いいか、糞坊主、俺の妹が慈愛の天使になるとき、おまえは地獄に堕ちて喚くがいい。」
そしてこう続ける。
「ああ、この耐えがたい悲しみ、三十倍にもなって、あの呪わしき奴(もちろんハムレットのこと)の頭に降りかかれ、おまえから生き生きとした理性を奪った極悪非道の奴の頭に。――待て。土をかけるな。今一度、この腕に抱きたい。[墓の中に飛び込む]さ、生きている者もろともに土をかけろ。・・・」
映画「ハムレット」主演ローレンス・オリヴィエ
ヨリックの頭蓋骨に語りかけるハムレット
映画「ハムレット」主演ローレンス・オリヴィエ イギリス行きを告げられるハムレット
映画「ハムレット」主演ローレンス・オリヴィエ 司祭に不満をぶつけるレアティーズ
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ドラクロワ「墓地のハムレットとホレイシオ」ルーヴル美術館
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