「ヴェルサイユ宮殿・庭園とルイ14世」10 公妾マントノン夫人②
夫に先立たれ未亡人としてひっそり暮らしているスカロン夫人を、子供たちの養育係として選んだのはモンテスパン夫人自身だった。未亡人が知識人(詩人で博学だった夫スカロンから豊富な知識を得た)で、控えめで、しかも美人でないことを知り、安心して子どもを任せられると思ったからだ。スカロン夫人は気持ちのいい穏やかな雰囲気のある顔をしていたが、容姿に恵まれているとは言えなかった。彼女のような人が国王の気を引くことなど、モンテスパン夫人には考えも及ばないことだったのだ。
ところがその意に反して、ルイ14世は献身的に子供の養育にあたる未亡人に関心を持つようになる。まさかと思っていた養育係が国王に気に入られたと知って、モンテスパン夫人はいじめにかかる。貴族や侍女がいる時をわざと見計らって、激しく罵声を浴びせたりした。未亡人はそうしたことに耐える美徳をもっていたが、ルイ14世にはモンテスパン夫人の傲慢な態度がとても耐えられなかった。そこで国王は、1674年、未亡人に「マントノン侯爵夫人」の称号を与え(マントノン侯爵と結婚したわけではなく、正確には「マントノン女公爵」)、ふたりの女性の間にある身分の差を取り除いた。
こうしてフランソワーズ・スカロンはマントノン夫人として、王お気に入りのメーヌ公(モンテスパン夫人と国王の長男)の育ての親として確固たる地位を築いていくことになるが、王の公式愛妾モンテスパン夫人の焦りは募る。彼女への王の強い愛情は変わらなかったが、何人もの子供を次々と産んだこともあり、35を過ぎてからかなり太り、体形が崩れてきた。女魔術師ラ・ヴォワザンに頼んで強力な媚薬を処方させたあげくに「毒薬事件」が起こり、結局モンテスパン夫人は1679年には王の寵愛を失うことになる。
マントノン夫人は、結果的には愛妾レースに最後に一人だけ勝ち残って、「宮廷の女王」となったわけだが、王に肉体を許すことはなかった。モンテスパン夫人が宮廷を去った後も拒絶し続けた。王には王妃という存在がいる、自分は王妃を裏切るようなことはしたくない、というカトリック信仰からだった。ところが、宮廷が1682年にヴェルサイユに移って間もない1683年7月30日深夜、王妃マリー・テレーズが急逝。マントノン夫人は喜んで王に身を任せたかというとそうではない。喪が明けると、マントノン夫人は宮廷を去って自領のマントノンに引きこもりたいと王に願い出る。王はまだ若いので新しい王妃を迎えるべきだが、そうなったら自分は宮廷にはとどまらない方がいい、という理屈からだった。
それに対して王はどうしたか?なんとマントノン夫人との結婚を決意するのだ。王は結婚を公表しようとしたが、マントノン夫人は「身分違いの結婚」(mariage morganatique 貴賤結婚。国王の妃となる人は王女の称号をもつ人でなくてはならなかったが、マントノン夫人は公爵夫人でしかなかった )であることを理由に公表に強く反対したため、結婚は秘密裏に行われることになる。挙式はヴェルサイユ宮殿付属礼拝堂で、1683年10月9日から10日にかけての深夜に執り行われた。立会人は、ラシェーズ神父、ボンタン、モンシュヴルイユの3人で、パリ大司教が二人を結婚させた。
ところで、ルイ14世が行った国を衰退させた愚挙として取り上げられるのが、「ナントの勅令廃止」=「フォンテーヌブロー王令」(1685年、カトリックの立場からプロテスタント容認政策を転換し、プロテスタントの信仰を禁止)。その内容は実に苛酷である。プロテスタントの信仰の自由を否認し、牧師を国外に追放。プロテスタントの学校を閉鎖し、教会堂を破壊。プロテスタントの亡命は許さず、彼らの子どもにカトリックの洗礼を強制する等々。こうした状況下、捉えられればガレー船送りと財産没収を覚悟の上で、およそ20万のプロテスタントがフランスから脱出した。亡命者の中には商人、職人が多く含まれていたため、フランス経済に対して大きな打撃となる。他方、スイスの時計産業・金融業、ベルギーの貴金属工業・製鉄業、オランダの製紙業、プロイセンの製鉄業・皮革工業、イギリスの製鉄業・金属加工などはユグノー移民のおかげで発展したといわれている。
ジャンダルメンマルクト広場(ベルリン) 左が「ドイツ・ドーム」(ドイツ大聖堂)、右が「フランス・ドーム」(フランス大聖堂)、真ん中がコンツェルトハウス
「フランスドーム」Französischer Dom ジャンダルメンマルクト広場 ベルリン
1701~05年にかけて、フランスから逃れてきたユグノー教徒のために建設された教会堂。18世紀後半、フリードリヒ大王によって教会の隣に建てられ華やかな塔と2つを総称してフランスドームと呼ばれる。
プロイセンへの宗教難民
ピエール・ミニャール「マントノン夫人」ヴェルサイユ宮殿
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