「ヴェルサイユ宮殿・庭園とルイ14世」7 公妾モンテスパン夫人①

 モンテスパン夫人の容姿は飛びぬけて素晴らしかった。公爵の称号をもち宮廷に出入りしていた作家サン・シモンは「まばゆいばかりに美しい」と語り、ラ・ファイエット夫人は「けっして感じのいい人ではないけれど、申し分のない完璧な美貌の持ち主」と、ため息をついていた。性格は、ルイーズ・ド・ラ・ヴァリエールとは対照的だった。ルイ14世の従姉グランド・マドモワゼルはこう語っていた。

「モンテスパン夫人はエスプリのあるお方です。感じのいいエスプリをお持ちですし、人をひきつける会話をなさる女性です。ラ・ヴァリエール嬢にはそれが欠けています。ですから、国王を楽しませるためには、そうした人が必要になるものなのです」

 モンテスパン夫人はルイーズに夢中の王を自分に振り向かせようと必死に努力する。王の近くでは、艶やかな笑い声を立てたり、華やかなジェスチャーを加えたり、ときには冗談も入れながら語り続けた。彼女は話術にたけた人で、それは彼女の派手な顔と服装によく似合っていた。それでも当初は、国王はモンテスパン夫人の情熱あふれるギラギラした視線を避け、ルイーズの優しい視線に心の慰めを見出していた。モンテスパン夫人はルイ14世の愛を勝ち取るために、のちに毒薬事件の首謀者として火刑に処せられる魔術師ラ・ヴォワザンのもとを訪れるようになる。

 ラ・ヴォワザンが、パリのボールガール通り(サン・ドニ門近く)に家を買ったのは1664年の末。家の裏側に目立たない簡素な小屋があったが、そこが彼女の仕事場だった。彼女は、客の悩み事を聞いてアドバイスをしたり、「愛を促進するための粉末」や「毒」などを調合して売るだけでなく、禁じられていた堕胎も秘密でおこなっていた。彼女が考えた妙薬は、ヒキガエルの粘液、爪の切りくず、尿、生理の血などを混ぜたもので、秘法は彼女が後に逮捕された時に明らかになった。

 ラ・ヴォワザンは「黒ミサ」もあげていた。悪魔に捧げるといわれる黒ミサは、地下室で夜半に行っていた。ミサを受ける人を全裸でベッドに横たわらせ、赤子の血をいけにえとして捧げ、呪文を唱えるのである。堕胎も行っていた彼女は、黒ミサに必要な赤子の血にこと欠かなかった。

 ラ・ヴォワザンの客には貴族たちも多かった。彼らが密かに語っていたラ・ヴォワザンの評判を耳にしたモンテスパン夫人が、頭からヴェールをかぶり顔を隠すようにして小屋に入っていくようになったのは、1665年のこと。彼女が王妃の女官に選ばれた翌年である。その効果があったかどうかはわからないが、国王はモンテスパン夫人に好意を持ち始める。モンテスパン夫人はますます魔術師ラ・ヴォワザンを頼るようになる。ラ・ヴォワザンの頼みで黒ミサをあげていたギブール神父は、モンテスパン夫人が全裸でベッドに横たわり、赤子の血を全身に塗って祈っていたことを証言している。神父によると夫人の祈りは長かった。

「どうか、国王と王太子の友情を得られますように。そしてそれが長続きしますように。

 また、王妃が不妊症になりますように。

 わたくしのために、国王が王妃とベッドも食事も共にしなくなりますように。

 わたくしが国王にお願いする全てのことを、わたくしと両親のために得られますように。

 わたくしの使用人たちが国王に感じよくするように。

 わたくしが偉大な貴族たちに好かれ、尊敬され、閣議にも参加できますように。

 国王がラ・ヴァリエール嬢を離れ、二度と彼女を見ませんように。

 王妃が離婚させられ、わたくしが国王とけっこんできますように」

 国王が自分を愛するようになったからには、おとなしいルイーズはさっさと愛妾の座からおり、宮殿から姿を消すものだとモンテスパン夫人は信じていた。ところが、彼女はその気配を一向に見せない。ルイーズは国王を深く愛していた。他の女性に心を奪われようとも、それが愛する人が望むことであるならば、耐え忍ぶような女性だったのだ。

海外ドラマ「ベルサイユ」ルイ14世とモンテスパン夫人

「モンテスパン夫人」ヴェルサイユ宮殿

ラ・ヴォワザンの肖像 1680年

黒ミサ

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