「イギリス産業革命と紅茶文化」1 イギリス人と紅茶(1)ティー・タイム
イギリス人の一日はティーにはじまりティーで終わるといわれるほど人と紅茶は切り離せない。紅茶好きのイギリスでは、一日に多い人で9回、平均でも7~8回は紅茶を飲んでいると言われている。漱石はロンドン留学中の日記(1901年2月4日)にこんなことを書いている。
「うちの女連は一日に五度食事をする 日本では米つきでも四度だ これには驚く その代わり朝から晩まで働いている」
「五度の食事」と書いているが、実はそのうちの二度は午前と午後のお茶である。この下宿の女性たちは、掃除や食事の支度などに一日中かかりきり。だから午前と午後のお茶の時間に、いくらかお腹にたまるような軽食をとっていたのだろう。そしてこの5回のティー・タイムこう呼ばれる。
①ブレックファースト・ティー(朝食時8:00)
②イレブンシス(昼食前11:00)
ヴィクトリア時代、メイドたちが朝の仕事がひと段落した後の短いティー・タイムとして、楽しんでいたのが「イレブンジス」の始まりのようだ。
③ランチ・ティー(昼食時13:00)
④ミッディ・ティー(おやつ15:00)
⑤ハイ・ティー【ミートティー、ディナーティー】(夕食時19:00)
「ハイ・ティー」は、スコットランドやアイルランドの労働者階級から始まった習慣。肉や魚、卵などの食事と一緒にスコーンやケーキなどの甘いものも用意され、かなりボリュームのあるものだった。
これだけなら特別お茶好きとも思えないが、これ以外の2回~4回のティー・タイムは次のようになる。
⑥アーリー・モーニング・ティー(起床後7:00)
朝、目が覚めてからベッドの上で飲む紅茶という意味から、「ベッド・ティー」とも呼ばれる。元々はヴィクトリア時代の貴族の習慣だったが、現在では週末に夫が妻の為に紅茶を淹れてベッドにもっていくという形で残る。
⑦ファイブ・オクロック(仕事後17:00)
仕事後に軽食と一緒に飲む紅茶。例えば観劇を見に行く前など、夕飯が遅くなる時に夕飯前の腹ごしらえとして、ちょっとのおつまみと一緒に紅茶を飲んだりする習慣のこと。
⑧アフター・ディナー・ティー(夕食後20:00) 夕食後のくつろいだ時間に飲む紅茶
⑨ナイト・ティー(就寝前21:00)
就寝前に飲む紅茶のこと。一日の終わりを紅茶でリラックスさせ、よく眠れるようにする。カフェインで目が覚めてしまうのが心配な時は、カフェインレスのものやハーブ・ティーなどを飲むようだ。
紅茶好きのイギリスにはこんな慣用句もある。 “It’s not my cup of tea. ”
“my cup of tea.”は「私の好きなもの」という意味で「私の趣味じゃない、苦手だ」となる。
しかし、なによりもイギリス人にとっての紅茶の存在の大きさを的確に表現していると感じるのは、グラッドストン(ヴィクトリア朝中期から後期にかけて、4度にわたり首相を務めた政治家)の次の名言だ。
“If you are cold, tea will warm you. If you are too heated, it will cool you. If you are depressed, it will cheer you. If you are excited, it will calm you. ”
(寒いとき、お茶は温めてくれる。熱くなりすぎたとき、お茶は冷やしてくれる。落ち込んでいるとき、お茶は元気付けてくれる。興奮しているとき、お茶は落ち着かせてくれる。)
「お気に入りのレストラン」、「いい女」と読み替えるともっとしっくりくるが。
ケイト・グリーナウェイ原画「庭のテーブルでアフタヌーン・ティーを楽しむ3人の女性」
ベッドでアーリー・モーニング・ティーを飲むエリザベス2世
エドワード・ル・バス「アーリー・モーニング・ティー」
チャールズ・スペンスレー「イレブンシス」
ウィリアム・ヘンリー・マージェットソン 「アフタヌーン・ティー」
メアリー・カサット「ファイブ・オクロック・ティー」1880年 ボストン美術館
ウィリアム・グラッドストン
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