「宗教国家アメリカの誕生」2 宗教色(2)「IN GOD WE TRUST」

 「IN GOD WE TRUST」(「我々は神を信じる」)とは、アメリカ合衆国における公式な国家の標語である。この標語は、南北戦争で大きな役割を果たしたので、アメリカ合衆国の硬貨に大きく表記されるようになった。その経緯はこうだ。

1861年11月13日、ポートランド・チェイス財務長官(リンカーン大統領の下で財務長官および最高裁長官を務めた)宛に、ペンシルベニア州リドリーで、牧師をしていたM. R.ワーキンソンから手紙が届いた。

あなたは財務に関する議会において、今年度のレポートを提出すると思います。私たちの通貨に関する一つの重大な事実が、長い間見落とされてきました。硬貨に神がはっきりと記されていないのです。

あなたはおそらくキリスト教徒でしょう。もし私たちの合衆国が再建されていなかったら、どうなっていたのでしょうか。次世代の歴史家たちが、合衆国をキリスト教徒ではない異教徒たちの国だと、のちに推測しかねません。

 私が提案するのは、自由の女神にかわって、PERPETUAL UNION(合衆国よ永遠に)の言葉とともに、州の数と同じ13の星のリングを硬貨に表記することです。リングの内側の国旗の上には、後光とともに真実の瞳を描き、その周りには神・自由・法と刻みましょう。

こうすれば、文句の付けようのない美しい硬貨ができ、異教徒たちからの辱めを受けることはありません。また、私たちは神の庇護のもとに置かれることでしょう。

私見ですが、神を否定する私たちの国のあり方は、非常に大きな災害のようなものだと思っております。

あなたがまず初めに行うべき事を記述しておきました。

 この手紙を受けて、ポートランドはフィラデルフィアの造幣局局長であるジェームズ・ポロックに、1861年11月20日付けの手紙で標語を準備するように命令した。

神の権威または庇護の無い国は、強大な存在になることができない。国民の神への信念は、私たちの硬貨に記すべきである。君の仕事しだいで、合衆国の標語を短く簡潔に伝えることのできる道具を作ることができる。

1837年1月18日のアメリカ合衆国議会は、アメリカ合衆国の硬貨に標語を表記すべきだとの結論に達した。造幣局局長は硬貨に表記する標語の案として、「OUR COUNTRY」「OUR GOD」「GOD, OUR TRUST」を提出したが、神の存在を明確に記述している標語として「IN GOD WE TRUST」に決定した。この標語は、1864年の2セント硬貨に初めて表記されることとなったが、1938年からは全ての硬貨に刻印されることとなった。

ただし、セオドア・ルーズベルト大統領のように、コインの標語の一部に「God」という字を入れることに難色を示す人物もいた。1907年11月11日、ルーズベルト大統領がウィリアム・ボードリーに宛てた手紙には、こう書かれている。

「In God We Trust」を硬貨などに表記することは、好ましくないだけではなく有害であるともいえる。また、それは恐ろしくも不敬な行為でもある。硬貨や切手、広告にその標語を使うことによって「In God We Trust」の価値を下げることは、賢明な方法とは言いがたい。

 また合衆国憲法が保障している「信教の自由」は、神の存在を信じなくてよい権利も含まれている。そのため「IN GOD WE TRUST」が、信教の自由を侵すものではないかとして、一部で議論が持ち上がっている。それでも、2003年のギャラップ調査によると、「アメリカ人の90%は硬貨に標語を表記すること」に「賛成」しているそうだ。

1ドル紙幣  「IN GOD WE TRUST」の文字が印刷されている

アメリカのコイン 5種類のいずれにも「IN GOD WE TRUST」の文字が刻印されている

1セント硬貨 第16代大統領エイブラハム・リンカーン

5セント硬貨 第3代大統領トーマス・ジェファーソン

10セント硬貨  第32代大統領フランクリン・ルーズベルト

25セント硬貨 初代大統領ジョージ・ワシントン

50セント硬貨  第35代大統領ジョン・F・ケネディ

1ドル硬貨 スーザン・ブローネル・アンソニー 女性参政権獲得のために活動した

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