「平戸・長崎三泊四日」12 10月6日長崎(7)勝海舟④

 勝は『海舟座談』の中で「おれは女郎買いはしなかった」と言っているが、そんなこともしなくていいように、ちゃんと女がこしらえてあった。「お久[ひさ]」(梶 玖磨[くま])。この時14歳で、すでに未亡人。その家は西坂にあって、二十六聖人記念教会のそばにあり、今も梶家ゆかりの子孫が住んでいるとのこと。勝は、本蓮寺の大乗院に下宿していたから、西坂はごく近く、ここを通って西役所にある伝習所に通っていたのである。

 2人の出会いについては次のように描かれることが多い。

「ある雨の日、坂道で下駄の鼻緒が切れて困っていると、すぐ後ろの家の格子が開いて、きれいな女のひとがでてきて、鼻緒を立ててくれた。それでお礼にと金を紙に包んで置いて、別れた。翌日、女のひとは「過分ないただきものをしまして・・・」と、伝習所へ勝を訪ねて礼をいいにきた。これが縁で、勝はこの女の家にしきりに出入りするようになった。」(勝部真長『勝海舟』)

 NHK大河ドラマ『勝海舟』(1974年。主演の渡哲也が急病に倒れたため、松方弘樹が勝海舟役を引き継いだ。)では勝(松方弘樹)とお久(大原麗子)のこんなやり取りのシーンがある。

(勝) 「長崎の町には、直接上海の町に商いに行ってる人間がいるのかい?」

(お久)「長崎じゃみんなが言うとりますばい。長崎奉行は飾りもん、町のみんなが買うとる、って…」

(勝) 「お前さん顔に似合わねえ、恐ろしいことを平気で言うねえ…」

 子母澤寛『勝海舟』には、美しい満月の夜にお久、お久の母と3人で月見に出かける場面があり、勝尊久のこんなやり取りが描かれている。

「おいらの、おやじもいい人だったよ。おいら、段々年をとって来て、はじめておやじが、わかって来た気がするんだ。喧嘩もする、道楽もする、がそんなものを通り越したいいところが、たんとあった人だ。・・・ふと、気がついたかくすくす笑って、え、おいらなんざあいいところの一つもねえ人間だ、それに伝習所での憎まれっ子よ。長生きするよ。

 わたくしも、我儘なおなごで、そちこちの憎まれものでございます、やっぱり長生きでございましょう。でも、長生きをしても仕方のない女子でございましたねえ。一度、女子を捨てた女子、すたれものでございますもの。」

 このあとの勝のセリフがいい。

「『馬鹿をお云いな』

 麟太郎は少し叱るような声だ。女子を捨てた女子とはなんだえ、といって、お前さん不縁になったを、女子を捨てたはねえだろう、じゃあ不幸せの女子は、みなすたれものというになる。すたれものか、すたれものでねえかは、その人の心次第、一度、夫を持ったからだ故、二夫に見えねえなんざあ、おいらは嫌えだよ。・・・

『ほほ。そうおっしゃって下さるは先生ばかり、世の中は、やれ出戻りだ後家さんだと、とんと対手(あいて)にはしてはくれませぬ』

『しねえ対手に、して貰うはねえだろう。してくれるはきっとある』

『そうでしょうか』

『お前さん、案外、唐変木でんすね』

『ほ、ほ、ほ、ほ』

『そんな若さで、美しいがこのまま朽ちてどうなるものかよ』

 お久が麟太郎に惹かれるのは当たり前だ。

FB 「平戸・長崎三泊四日」12 10月6日長崎(7)勝海舟④

 勝は『海舟座談』の中で「おれは女郎買いはしなかった」と言っているが、そんなこともしなくていいように、ちゃんと女がこしらえてあった。「お久[ひさ]」(梶 玖磨[くま])。この時14歳で、すでに未亡人。その家は西坂にあって、二十六聖人記念教会のそばにあり、今も梶家ゆかりの子孫が住んでいるとのこと。勝は、本蓮寺の大乗院に下宿していたから、西坂はごく近く、ここを通って西役所にある伝習所に通っていたのである。

 2人の出会いについては次のように描かれることが多い。

「ある雨の日、坂道で下駄の鼻緒が切れて困っていると、すぐ後ろの家の格子が開いて、きれいな女のひとがでてきて、鼻緒を立ててくれた。それでお礼にと金を紙に包んで置いて、別れた。翌日、女のひとは「過分ないただきものをしまして・・・」と、伝習所へ勝を訪ねて礼をいいにきた。これが縁で、勝はこの女の家にしきりに出入りするようになった。」(勝部真長『勝海舟』)

 子母澤寛『勝海舟』には、美しい満月の夜にお久、お久の母と3人で月見に出かける場面があり、勝尊久のこんなやり取りが描かれている。

「おいらの、おやじもいい人だったよ。おいら、段々年をとって来て、はじめておやじが、わかって来た気がするんだ。喧嘩もする、道楽もする、がそんなものを通り越したいいところが、たんとあった人だ。・・・おいらなんざあいいところの一つもねえ人間だ、それに伝習所での憎まれっ子よ。長生きするよ。

 わたくしも、我儘なおなごで、そちこちの憎まれものでございます、やっぱり長生きでございましょう。でも、長生きをしても仕方のない女子でございましたねえ。一度、女子を捨てた女子、すたれものでございますもの。」

 このあとの勝のセリフがいい。

「『馬鹿をお云いな』

 麟太郎は少し叱るような声だ。女子を捨てた女子とはなんだえ、といって、お前さん不縁になったを、女子を捨てたはねえだろう、じゃあ不幸せの女子は、みなすたれものというになる。すたれものか、すたれものでねえかは、その人の心次第、一度、夫を持ったからだ故、二夫に見えねえなんざあ、おいらは嫌えだよ。・・・

『ほほ。そうおっしゃって下さるは先生ばかり、世の中は、やれ出戻りだ後家さんだと、とんと対手(あいて)にはしてはくれませぬ』

『しねえ対手に、して貰うはねえだろう。してくれるはきっとある』

『そうでしょうか』

『お前さん、案外、唐変木でんすね』

『ほ、ほ、ほ、ほ』

『そんな若さで、美しいがこのまま朽ちてどうなるものかよ』     」

 お久が麟太郎に惹かれるのは当たり前だ。

NHK大河ドラマ『勝海舟』松方弘樹(勝)と大原麗子(お久)

NHK大河ドラマ『勝海舟』松方弘樹(勝)と大原麗子(お久)  二人の出会い

NHK大河ドラマ『勝海舟』松方弘樹(勝)と大原麗子(お久)

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