「カトリック宗教改革」５　イグナティウス・デ・ロヨラ③「コレギウム」

　イエズス会の骨格が『会憲』なら、魂は『霊操』である。『霊操』とは、イグナティウス・デ・ロヨラによって始められたイエズス会の霊性修行、またその方法を記した著作。「体操」で身体を鍛えるように「霊操」は霊魂を鍛えることを目的とする。そして修行の到達点においては神と深い人格的交わりを持つこと＝神の御意志を見出すことが目指される。この『霊操』は、怪我から回復後のロヨラが、モンセラートからマンレサへ巡礼と祈り・苦行・清貧の生活を続けながら、さまざまな誘惑にうちかつ体験をかさね、次第に「霊性」にめざめていった過程を後にまとめたもので、やがてイエズス会士の指針として読み継がれる書となる。

　『霊操』以前にもキリスト教の修道会では祈りや霊的読書などの修行が行われていた。だが、方法は整備されていないものが多かった。ロヨラは『霊操』でそれまで修道会に伝わってきた良心の究明、黙想、観想などの修行の諸要素をはじめて本格的に体系化し、自身の独創を加えてまとめあげた。霊操の中では指導者、修行者それぞれに対する注意点、修行の手順、規則、霊の微妙な動きを感じ取る方法などについて詳細に記されている。 霊操（観想）は1回1時間を毎日5回行う。その進行は四週間に分かれ、第一週「罪の認知と痛悔」第二週「キリストの救済活動の観想」、第三週「キリストの受難の観想」、第四週　「キリストの復活の観想」の構成になっている。

　イエズス会がパウルス3世から正式に許可された（1540年）翌年、ロヨラは会員の投票によってイエズス会の初代総会長に選出された。彼は会員たちを欧州全域に派遣して、一般学校と神学校を各地に創設させた。ローマにおけるカール5世の名代をつとめていたホアン・デ・ヴェガはロヨラと会談し、その志の高さに感銘を受けた。ヴェガはシチリア総督に任命されるとイグナチオとイエズス会員を同地へ招き、メッシーナ（シチリア）に大学を開かせた（1548年）。メッシーナの大学は評判を呼び、その教育システムは以後のイエズス会学校の雛形となる。イエズス会の学校経営における教育方針は『霊操』の精神に基づく人格形成。このような教育方針に基づく学校をイエズス会は「コレギウム」(collegium)と称して一般の青少年の教育に携わった。

　コレギウムはシチリアのメシーナを皮切りに、イタリア全土、スペイン、フランス、ドイツで設立されたが、これらは皇帝、諸侯、自由都市の市議会、高位聖職者等からの依頼によるものだった。メシーナ学院を創立してからイグナチオが帰天した1556年までの8年間に31校のコレギウムを設立し、そこで教育にあたる会員は1,000人にのぼっていた。

　イエズス会は、社会風潮がひどく乱れていたルネサンス時代に創立された。そして、民衆の道徳的な水準を高めるためには皇帝や国王をはじめ領主、貴族等の支配階級にある者が、己の栄華を求める生活を改めさせなければならないと考えた。そして、その目的を達成するためには、支配階級の子どもたちに知育ばかりでなく、徹底した道徳教育を施すという教育方針を立てる。しかし、この方針に対して諸国の国王をはじめ支配階級にある者たちは反発。17世紀のドイツでは、イエズス会員が支配者の道徳的な責任について追及する説教をし、また書物に著したため、国王はイエズス会総会長に時代の趨勢に反するような説教は行わないよう要請。こうしてイエズス会は絶対主義と啓蒙思想に対抗したため18世紀にはスペイン、ポルトガル、フランスの諸国から会員は次々に追放され、さらにフランスのブルボン家と、オーストリアやスペインのハプスブルク家の諸侯は、教皇クレメンス14世にイエズス会を抹殺するように迫る。教皇クレメンス14世もこれらの要請に抵抗できず、教皇への絶対的な服従を誓願の一つとしているイエズス会に、1773年7月21日、「教会の平和のために、親しい者でさえ犠牲にしなくてはならない」との書簡をもって、イエズス会の解散を命じた。イエズス会はその命令に即座に従ったが、ロシア政府は教皇の命を発表しなかったため、150人ほどの会員が合法的に存続することができた。また、プロイセン王フリードリヒ2世も自国へのイエズス会士の亡命を許可し、カトリック系の学校の教師として歓迎している。イエズス会が再び教皇ピオ7世から活動の認可を受けたのは解散を命じられてから41年が過ぎた1814年8月7日のことである。

　ところで、イエズス会が設立母体となっている高等教育機関は、現在、世界に200以上あり、その中の約80校が大学で、そこで学ぶ学生は64万人以上になる。わが国では、上智大学（東京）とエリザベト音楽大学（広島）がある。

上智大学での教皇フランシスコの講演 2019年11月26日

ジェズ教会（ローマ）　イエズス会総本山

「イグナティウス・デ・ロヨラ像」ジェズ教会　ローマ