「日本の夏」14 「蓮」①「鏡湖池」

 梅雨の花が紫陽花なら、梅雨が明け、強烈な夏の陽光が大地に届くようになった頃、天に向かって花を開き始めるのが蓮。僧正遍照(へんじょう)の有名な一首。

 「蓮葉(はちすは)のにごりに染(し)まぬ心もて 

                     なにかは露を玉とあざむく」

                           (僧正遍照『古今集』)

(蓮の葉が泥水の中に生えていても濁りに染まらない清らかな心を持っていながら、どうしてその上に置く露を玉と偽るのであろうか)

 昔から、「蓮の花は泥より出でて泥に染まらず」などと言われ、「沈着」、「雄弁」、「清らかな心」などの花言葉をもつ高潔な印象の花。映画『男はつらいよ』の主題歌(歌:渥美清 作詞:星野哲郎 作曲:山本直純)でもこう歌われている。

     「どぶに落ちても根のあるやつは蓮(はちす)の花と咲く」

*「はちす」は果実が蜂巣状をなすところからの「はす」の別名。

 加賀千代女の有名な俳句もある。

            「蓮白しもとより水は澄まねども」

 これらに共通する蓮のイメージは、仏教に由来。仏教で、花といえば蓮の花(「蓮華」れんげ)。蓮の花の上に仏様が座られていたり、仏像の下の台座が蓮の花だったりするが、それは「阿弥陀経」(あみだきょう)において極楽には蓮の華が咲いていると説かれているから。「阿弥陀経」が描く極楽世界はこうだ。

「極楽国土には七宝の池あり。八功徳水(はっくどくすい)そのなかに充満せり。池の底にはもつぱら金(こがね)の沙(いさご)をもつて地(じ)に布(し)けり。四辺の階道は、金(こん)・銀(ごん)・瑠璃(るり)・玻璃(はり)合成(ごうじょう)せり。上に楼閣あり。また金・銀・瑠璃・玻璃・硨磲(しゃこ)・赤珠(しゃくしゅ)・碼碯(めのう)をもつて、これを厳飾(ごんじき)す。池のなかの蓮華は、大きさ車輪のごとし。青色(しょうしき)には青光(しょうこう)、黄色(おうしき)には黄光(おうこう)、赤色(しゃくしき)には赤光(しゃっこう)、白色(びゃくしき)には白光(びゃっこう)ありて、微妙(みみょう)香潔(こうけつ)なり。」

(極楽世界には七つの宝でできた池があって、八つの功徳(甘い、冷たい、柔らかい、軽い、清らか、くさくない、飲むときにのどをいためない、飲んでお腹をこわさない)を持った水がなみなみとたたえられている。池の底には一面に黄金の砂が敷き詰められ、また四方には金・銀・瑠璃・水晶でできた階段がある。岸の上には楼閣(背の高い重層の建物)があって、それもまた金・銀・瑠璃・水晶・硨磲(白珊瑚)・赤真珠・碼碯で美しく飾られている。また池の中には車輪のように大きな蓮の花が咲いていて、青い花は青い光を、黄色い花は黄色い光を、赤い花は赤い光を、白い花は白い光を放ち、いずれも美しく、その香りは気高く清らかである。)

 これを形にしたらかなり派手派手な俗っぽいイメージになりそうだが、これをもとに建造された場所が京都にあり世界遺産にも指定されている。あの「金閣寺」だ。その庭園は92,400㎡(2万8千坪)あり、鹿苑寺庭園として特別史跡及び特別名勝指定地となっているが、中心となるのは約6,600㎡(約2千坪)の「鏡湖池」。「きょうこち」と読む。鏡のように金閣寺を映し出す(鏡湖池はどの角度から見ても金閣が湖面に映るように設計されている。また、池に写った金閣は「逆さ金閣」と呼ばれ、写真家などにも愛されている)ことから、その名前が付けられた。そして、足利義満はこの「鏡湖池」を浄土世界にある「七宝の池」を模して造られせたといわれている。

平等院鳳凰堂 阿弥陀如来坐像   台座は「蓮華座」

醍醐寺 宝冠弥勒菩薩座像   台座は「蓮華座」

金閣寺と鏡湖池

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