ゴヤとナポレオン2 スペインとフランス(2)「家族協約」

 スペイン継承戦争(1701~13)はスペインを決定的に弱体化させた。講和条約(1713年4月 11日「ユトレヒト条約」オーストリア以外の諸国との間,翌 14年3月6日「ラスタット条約」オーストリアとの間)により,スペイン王としてアンジュー公フィリップが承認された(ただし、フランスとスペインが永遠に合同しない事が条件)ものの,スペインはイギリスにジブラルタル,ミノルカ,アフリカ奴隷の売込権 (「アシエント」 asiento これによって、イギリスは以後30年間にわたり、毎年1000名の黒人奴隷をスペインのアメリカ植民地に輸出することができるようになった) を,オーストリアにネーデルラント,ミラノ,サルジニアを,サヴォイにシチリア島を割譲(後にサルデーニャ島と交換、サルデーニャ王国となる)。スペインのハプスブルク帝国は崩壊した。他方、イギリスは最大の受益国となり,世界に海洋植民国家としての地位を確立した。

 その後、スペインとフランスは合同こそしなかったが、三度「家族協約」を結んで一緒に戦争を戦った。スペイン王フェリペ5世とフランス王ルイ15世(フェリペ5世の甥)の間で「第一次家族協約」(1733年11月7日 エスコリアル条約→ポーランド継承戦争)と「第二次家族協約」(1743年10月25日 フォンテーヌブロー条約→オーストリア継承戦争)、スペイン王カルロス3世とフランス王ルイ15世(ルロス3世の叔父)の間で「第三次家族協約」(1761年8月15日 パリ条約→七年戦争)。

 スペインの啓蒙専制君主と言われるカルロス3世がこの「第三次家族協約」をフランスと結んだのは、即位の2年後の1761年。イギリスの植民地拡大政策への危惧からだが、彼がまだナポリ王だった1742年、ナポリを包囲したイギリス艦隊司令官に恫喝されて、ナポリの中立宣言に署名させられた時のイギリスへの怨念もあったことだろう。しかし、フランス、スペインはイギリスに完敗。1763年のパリ条約で、イギリスにフロリダとサクラメントを割譲することになった(その後、アメリカ独立戦争でフランスとともに独立を支援し、イギリス海軍と戦い、このときはアメリカ大陸でフロリダを奪回するとともに地中海でミノルカ島を獲得した)。しかし、この敗北がその後のカロロス3世の内政方針を方向付ける(フリードリヒ大王のプロイセンにシュレージエンを奪われた後のマリア・テレジアを彷彿とさせる。1716年生まれのカルロス3世は1717年生まれのマリア・テレジアとは1歳しか違わない)。彼は、現実のイギリスの世界貿易と海軍力における実力は動かしがたいほど強力であり、戦う以前にまずはスペイン国内の近代化によって国力を培うことが何より先決であるという認識に至ったのだ。優れた人材を登用し,数々の改革を実施。なかでも,軍職の整備をはじめとする軍(特に海軍)の改革,および公共事業に功績を残した。

 ところで、カルロス3世はいまだに「マドリッド最良の市長」と呼ばれている。彼は芸術、文化、科学に関してヨーロッパのすぐれたものを積極的に導入し、国力の低下により荒廃していたマドリッドの都市としての整備に尽くしたからだ。マドリッドを代表するモニュメントである「アルカラ門」(Puerta de Alcalaプエルタ・デ・アルカラ)も「シベーレス広場」(プラサ・デ・シベーレス Plaza de Cibeles)カルロス3世が建設した。ブエン・レティーロ公園のすぐ隣、インデペンデンシア広場の中央に位置する「アルカラ門」。元々は街を城壁が囲み、この門が街へのメインゲートになっており、ここで街に入る人やモノを管理し、関税を課していた。アルカラ門は1599年にこの地に建設されたが、2世紀後の1764年、この門を好まなかったカルロス3世によって取り壊され、新しい門の建設が命じられた。そこで選ばれたのがイタリアの有名建築家フランチェスコ・サバティーニ。花崗岩で出来た新古典様式建築で、5つのアーチからなり、その頂点には戦士の天使とキューピッドが配置されている。「シベーレス広場」は、マドリッド中心部にある円形の広場で、広場はプラド通り、レコレトス通り、アルカラ通りといった大きな通りが交差している中心に位置しています。広場の中心には噴水があり、また360度見回すとリナーレス宮殿、コムニカシオネス宮殿(旧マドリッド中央郵便局、現市庁舎)、スペイン銀行本店、ブエナビスタ宮殿などが望める。さらに、世界三大美術館の一つとも言われる「プラド美術館」も、メインとなるビリャヌエバ館の建物は、1785年にカルロス3世が自然科学に関する博物館を作るために設計させたものなのだ。

シベーレス広場

アルカラ門

プラド美術館

アントン・ラファエル・メングス「カルロス3世」プラド美術館

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