フランスの歴史と郷土料理15 リヨン(5)「ア・ラ・ リヨネーズ à la lyonnais」

 リヨンの街に住み着いたケルト人(ガリア人)は、南の「フルヴィエールの丘」と共に「クロワ・ルースの丘」を要衝とし、この2つの丘を中心に街が徐々に発展した。紀元前43年、リヨンはローマ軍の侵略でローマの植民都市ルグドゥヌム(現リヨン)となる。そして「フルヴィエールの丘」に「ローマ劇場」 (Théâtres Romains de Fourvière)、「クロワ・ルースの丘」に「円形闘技場」(Amphithéâtre des Trois Gaules)が造られた。この円形闘技場、実はリヨン料理でよく使われるためネギと深い関係がある。

 中央アジアが原産地とされるタマネギは次第に西方へと伝わり、エジプトでは広く栽培されるようになる。滋養強壮に良い食材として知られていたため、ピラミッド建設に携わった数十万の労働者たちのスタミナ源として、ニンニクとともによく食べられていたとも言われる。その後、地中海沿岸地帯に広がり、やがて南欧、東欧に広がってゆく。スタミナ源と考えられたタマネギは、古代ギリシャではオリンピック競技への出場をめざす運動選手に食べさせていたし、古代ローマの剣闘士はタマネギの汁でマッサージをしてから闘技場に入場した。そして、ローマ軍兵士によってタマネギはローマ帝国各地に拡がり、当然ローマの植民市リヨンにも定着した。

 メニューに「ア・ラ・ リヨネーズ」(à la lyonnaise)とあれば「リヨン風」の意味で、特産のタマネギを使った調理法のこと。「Omelette à la lyonnaise オムレット・ア・ラ・リヨネーズ」は薄切りのたまねぎとみじん切りのパセリが入った「リヨン風オムレツ」。「Soupe à l'oignon Lyonnaise スープ・ドニョン・ア・ラ・リヨネーズ」は「リヨン風オニオングラタンスープ」。玉ねぎの甘味、旨味をとことん味わい尽くせる熱々で濃厚なスープだ。簡単に作れて美味しいのが「Pommes de terre à la lyonnaise ポム・ド・テール・ア・ラ・ リヨネーズ」。タマネギとポテトを炒めて作る「リヨン風ポテト」だ。リヨンから遠くないドーフィネ地方発祥の「グラタン・ドフィノワ」とともに我が家の定番ジャガイモ料理だ。ブションの定番料理「Gras-double à la lyonnaise グラドゥーブル・ア・ラ・リヨネーズ」は、牛の第一胃(ミノ)をやわらかく茹でて細切りにし、タマネギとともに炒めワインビネガーで味付けする。バターでじっくり炒めた玉ねぎの甘味とビネガーの酸味がくせになる美味しさ。

 ところで、タマネギを例にとってもイタリアとの関係の深いリヨンだが、メディチ家とのかかわりについて一言。歴史上、メディチ家出身のフランス王妃は二人いるが、ネット上でこの二人のことを混同した記述を時々目にするので。一人は、有名なカトリーヌ・ド・メディシス。1533年10月28日、後のアンリ2世と結婚。結婚式が行われたのはリヨンではない。マルセイユだ。もともとニースで行われる予定だったが神聖ローマ帝国皇帝カール5世の手先だったサヴォイア公(ニースを統治)がフランス王とローマ教皇を迎え入れることを拒絶したためマルセイユに変更された(この結婚は、当時カール5世と敵対していたフランス国王フランソワ1世がローマ教皇クレメンス7世〔メディチ家出身〕との同盟関係を築くための政略結婚だった)。もうひとりのメディチ家出身のフランス王妃はマリー・ド・メディシス。1600年10月5日にフィレンツェのサンタ・マリア・デル・フィオーレ教会(ドゥオーモ)で代理結婚式を行い、アンリ4世も出席しての正式の結婚式は同年12月7日、リヨンのサン・ジャン大聖堂で行われた。ルーヴル美術館「メディシスの間」にはでルーベンス『マリー・ド・メディシスの生涯(24点)』が展示されているが、その中に「マリー・ド・メディシスとアンリ4世の代理結婚式」と「マリーとアンリ4世のリヨンでの対面」も含まれている。カトリーヌ・ド・メディシスがフランス料理に与えた影響の大きさはよく語られるが、マリーもお抱え料理人を伴ってリヨンにやってきた。当然イタリアの食文化の影響をもたらした。そもそもリヨンとメディチ家の関係の歴史は中世に遡る。

 金融業で莫大な利益を得たメディチ家は、メディチ銀行の支店を次々に各地に開設。1397年ローマ支店、1400年ナポリ支店、1402年ヴェネツィア支店、1426年ジュネーヴ支店・・・。このジュネーヴ支店が1466年、リヨンに移されローマ支店に次ぐ収益を上げた。メディチ銀行以外のフィレンツェの銀行の支店も置かれた。多くのイタリア人が活躍するリヨンは食文化の面でもイタリアの影響を多く受けたことだろう。

「Pommes de terre à la lyonnaise ポム・ド・テール・ア・ラ・ リヨネーズ」

「Soupe à l'oignon Lyonnaise スープ・ドニョン・ア・ラ・リヨネーズ」


「Gras-double à la lyonnaise グラドゥーブル・ア・ラ・リヨネーズ」

リヨン 円形闘技場


リヨン サン・ジャン大聖堂


ルーベンス「マリー・ド・メディシスの肖像」1622年 プラド美術館

[マリー・ド・メディシスの生涯」 ルーヴル美術館リシュリー翼メディシスの間

ルーベンス「リヨンでのアンリ4世との対面」ルーヴル美術館

  アンリ4世はゼウス、マリーはゼウスの妻ヘラの姿で描かれている

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