フランスの歴史と郷土料理14 リヨン(4)内臓料理のオンパレード
リヨンの郷土料理の特徴は、何と言ってもその内臓料理の多様さだろう。家畜の頭や足、胃、心臓、舌などの臓物や正肉でない部分を使った料理が驚くほど多い。リヨン特有の大衆的なビストロ「ブション」に入ると、注文時に自動的に運ばれてくるのが、ブション定番の無料おつまみ「グラトン」(Grattons)。豚の脂身や皮を細長い帯状に切って、油で揚げた豚の脂のから揚げ。塩味がついてパリパリしているので、ボジョレー(「リヨンには3つの川が流れている」と言われる。ローヌ河とソーヌ川ともうひとつが「ボジョレー」。リヨン市ではワインのボジョレーがよく飲まれることから、ボジョレーを川に例えているのだ)にとても合う。「ソシソン・リヨネ」(Saucisson lyonnais 豚肉と豚の脂で作り、10cmほどの太さで硬いサラミ)を薄くスライスしたものが出てくることもある。
次は前菜(Entrées)。「サラド・ド・ピエ・ド・ヴォー 」(Salade de pieds de veau 牛の足のサラダ)は豚足ならぬ牛足を細かくカットして、酢やマヨネーズで味付けしたサラダ料理。臭みもくせもなくぷるぷるとした食感のゼラチン質で食べやすい。シャルキュトリ(食肉加工品店)にも必ず置いてある。「サラド・ド・ミュゾー」( Salade de museau 豚鼻の軟骨のサラダ)は、豚の鼻を薄くスライスして、味付けはやはり酢やマヨネーズ。コリコリした食感だが、独特の香りや味がするので臓物系が苦手だとやや抵抗があるだろう。 「サラディエ・リヨネ(saladier lyonnais)」は、前菜に食べるサラダの盛り合わせ。古典的なブションでは、大きなボウルに入った3~5種類のサラダがテーブルに運ばれ、自分で好きなだけお皿に取って食べる。サラダの内容でよくあるのが、「サラダ・ド・ピエ・ド・ヴォ」、「サラダ・ド・ミュゾ」以外に、リヨン近郊のル・ピュイ・アン・ヴレ特産レンズ豆を使った「サラダ・ド・ロンティーユ」(Salade de lentille)、リヨン特産のソーセージを使った「サラダ・ド・セルヴェラ」(salade de cervelas)など。「パテ・アン・クルート・リヨネ」(Pâté en croûte lyonnais リヨンのパテのパイ包み)は豚肉や仔牛の肉やフォアグラをパイ生地で包み焼いたリヨンの伝統料理だが、こちらはレストラン料理。
次はメイン。まず「タブリエ・ド・サプール」(Tablier de sapeur トリッパ=牛の第二胃袋のカツレツ)。トリッパを柔らかく煮込み、粒マスタード、白ワインヴィネガーでマリネした後、パン粉焼きにしたもの。一見ミラノ風カツレツのよう。外はかりっとしていて中はジューシー。「ガトー・ド・フォア」(Gâteau de foies 鶏レバーの菓子仕立て)は、鶏や鴨のレバーをペースト状にして、スフレ状にふっくらと焼いた料理。「アンドゥイエット」(Andouillette 豚の内臓入りソーセージ)は、フレーズ(Fraise)という腸間膜(腸をおおって脊髄に固定している膜)や豚の腸に、豚や仔牛の胃を詰めてソーセージにした伝統料理(大腸に詰めた太いものが 「アンドゥイユ」、小腸に詰めた細いものは「アンドゥイエット」)。ソーセージ1本をそのままグリルして、マスタードを添えて提供される。初めて見たときはぎょっとしたが、今では大好物の「ブーダン・ノワール」(Boudin Noir 豚血のソーセージ)。リヨン風は更に生クリームも加えられ、その味わいはレバーにも似ているがほんのり甘味があり、くちどけも良くクセになる美味しさ。添えられたりんごのソテーとの相性が抜群。
リヨンの内臓料理、主なものだけでもこれだけある。リヨンに限らず、フランス各地、いやヨーロッパ各地で家畜は余すところなく食べられるが、リヨンほど多様な料理は生まれなかった。その理由は何か?やはり、「メール・リヨネーズ(リヨンの母たち)」と総称される女性料理人たちの存在が大きいように思う。ブルジョアのお抱え料理人として美食文化を育てた彼女たちだったからこそ、庶民相手の食堂に立っても、金持ちが口にしない内臓のような安い食材を庶民が美味しく食べられるように工夫して提供できたのだ。彼女たちの知識、知恵と技術なくして生まれなかった料理だと思う。
「サラディエ・リヨネ(saladier lyonnais)」
「グラトン」(Grattons)
「サラド・ド・ピエ・ド・ヴォー 」(Salade de pieds de veau 牛の足のサラダ)
「サラド・ド・ミュゾー」( Salade de museau 豚鼻の軟骨のサラダ)
「タブリエ・ド・サプール」(Tablier de sapeur トリッパ=牛の第二胃袋のカツレツ)
「ガトー・ド・フォア」(Gâteau de foies 鶏レバーの菓子仕立て)
「アンドゥイエット」(Andouillette 豚の内臓入りソーセージ)
「ブーダン・ノワール」(Boudin Noir 豚血のソーセージ)
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