フランスの歴史と郷土料理13 リヨン(3)「ドンブ産カエル」

 川カマス(ブロシェ)やザリガニ(エクルビス)が、なぜリヨンで料理によく使われるようになったかと言えば、近郊にドンブ湿地帯があるから。美食の国フランスにあって、ただ一つAOP(Appellation d'Origine Protégée。保護原産地呼称。ひと昔前まではAOC)を与えられたブレス産の地鶏(飼育期間:ブロイラーが6週間から8週間ぐらいに対して18週間4カ月あまり、飼育スペース:ブロイラーが10平方メートルに20~30羽に対して1羽)で有名なブール・カン・ブレス(Bourg-en-Bresse)とリヨンの中間にドンブ湿地帯はある。「ブルターニュ地方にあるドンブ湿地帯」とよく書かれるが、正確には「ローヌ・アルプ地方アン県西部」。

 このドンブ湿地帯、地図で見るとびっくりする。ものすごい数の池がびっしり!その数なんと30キロ圏内に1400以上とか(ちなみに、日本で県の面積あたりの数では全国1位は香川県。その数約1万4千。しかし、ドンブ湿地帯ほど集中しているエリアはないように思う)。フランス最大の淡水魚の生産地であることもうなづける。11世紀頃、魚を育てるために初めて僧侶が掘った時から、人の手によって池作りが進められてきたそうだ。ここは「ドンブ産ウズラ」とともに「ドンブ産カエル」が有名。

フランスで食用にする蛙は「grenouille(グルヌイユ)」と呼ばれる(日本語で「ヨーロッパトノサマガエル」と呼ぶ種類)が、日本で食用とされる「ウシガエル」とは異なる種類。イギリス人は「蛙を食べるフランス人」と言ってけなすし、日本人もいまだにエスカルゴほどにはカエルは食材として受け入れられていない。もちろんフランス人も、丸ごと食べるわけではなく、食べるのは後足だけ(「グルヌイユのもも肉」Cuisse de grenouille)。美味しいカエル料理は本当に美味しい(驚くことに白金のイタリアレストラン「ラ・ソスタ」はアミューズの盛り合わせの中にグルヌイユが入っているが、これがとびきり美味しい)。鶏肉に似て淡白で、それでいてジューシー。リヨンのブションでも、にんにくとパセリで味付けしながらバターで揚げ焼きし、骨つきのまま提供されたグルヌイユを客が手づかみでほおばる姿をよく目にする。

 ベルナール・ロワゾーー(Bernard Loiseau 1951-2003)の名を世界的に広めた伝説的な料理が「カエルのもも肉のニンニクのピュレとパセリソース添え」(Jambonnettes de grenouilles à la purée d'ail et au jus de persil)。彼は、バター、クリーム、オイルなどをほとんど用いずに鍋肌からうまみをこそぎ落とすデグラッセで味を作り、素材の味を引き出す「キュイジーヌ・ア・ロー」(cuisine a l'eau水の料理)を考案した料理人。「21世紀のフランス料理の扉を開けた」、「調理場のちいさなモーツァルト」などと絶讃され、星を落とした「ラ・コート・ドール」(La Côte d'Or)を奇跡的に復活させたことで、最も話題のシェフのひとりとなるが、ゴー・ミヨの評価が17点に落ちたことがきっかけとなり、2003年2月24日、自宅の自室にて猟銃で頭を打ち抜いて自殺したことでも有名。

 フランス料理に革新をもたらした料理として世界中の美食家達がこぞって食べに訪れたロワゾ―のカエル料理はいたってシンプル。皿の真ん中にニンニクのピューレ(ジャガイモと混ぜたもの)、そのまわりに、軽くボイルしてミキサーにかけたパセリのソース、そして皿の周りにソテーしたカエルのモモ肉が数本のっているだけ。

 ところで、ベルナール・ロワゾーがキュイジーヌ・ア・ローを考えるきっかけとなったのは、1970年代当時、多くの人が低カロリーの軽い料理を求めるように変化してきたことだ。彼は、これまでとは違う手法を見つける必要性に気付かされ、約100年も前にオーギュスト・エスコフィエが提唱していた「フランス料理はもっと軽く、もっとシンプルに」ということをその時代にあった形で表現しようとした。背景には、流通の発達によって、各地の食材を新鮮なままで料理することが可能になったこともある。

ドンブ湿地帯


ドンブ地方 水色はすべて池

ドンブ地方の位置(中心はヴィラール・デ・ドンブ)

あるフランスの料理番組 テーブルの上に活きたカエル この後これを料理

下の写真はテーブルの上を拡大したもの

「カエルのもも肉のニンニクのピュレとパセリソース添え」(Jambonnettes de grenouilles à la purée d'ail et au jus de persil)

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