フランスの歴史と郷土料理7 ブルターニュ(2)「ガレット」と「Kig ha farz」
パリのモンパルナス駅周辺に、通称「クレープ通り」と呼ばれるクレープ料理店「クレープリー」Crêperie)がひしめき合う通り(「モンパルナス通り」と「オデッサ通り」)がある。「クレープリー」(Crêperie)とは、クレープを専門に扱っている店ではなくてガレットとクレープをメインとするカフェレストラン。ガレットとクレープの違いについては、ガレットはそば粉を使い、クレ-プは小麦粉を使うという解説が多いが、一概にそうとも言えない。そば粉を使うクレ-プもるし、小麦粉を使うガレットもある。どうも、地域による呼び名の違いのようだ。実はブルターニュと言っても、西側のバス=ブルターニュ(Basse-Bretagne)と東側のオート=ブルターニュ(Haute-Bretagne)では使用される言語も違っていた。バス=ブルターニュは、ケルト語に属するブルトン語、オート=ブルターニュはロマンス語であるガロ語やオイル語。このように言語が違ったので、同じ食べ物でも地域によって呼び名が違ったようだ。ちなみにフランス語の意味は、「ガレット」「は丸くて薄いもの」、「クレープ」は「ちぢれた」。
ブルターニュは、今でこそ海産物の水揚げ量は国内の約3分の1を占めているほか、温暖な気候を利用してアーティチョーク、カリフラワー、ブロッコリー、インゲン豆など、豊富な野菜の栽培でも知られているが、昔は農業には向かない痩せた土地がほとんどで、育つ作物といえばソバくらいしかなかった。そば粉を使った「ガレット Galette」は言わばブルターニュのソウルフード。これを扱う「クレープリー」がモンパルナス周辺に多いのは、モンパルナス駅がブルターニュ方面に向かう列車の発着駅だから(パリには東京駅のような中央駅がない。行先によって、モンパルナス駅、サン・ラザール駅、北駅、リヨン駅などに使い分けられる)。19世紀末にブルターニュ西端のブレストとパリを結ぶ鉄道が開通して以来、多くのブルターニュ人がパリに移住。そのブルターニュ人たちがモンパルナスに同郷コミュニティを作り、ブルターニュの地元料理であるガレットの店を駅周辺に開店させたのだ。
ブルターニュにはブドウができないので、土地のワインはない。その代わり、地ビールがたくさんある。しかし、ガレットと一緒に飲むのはシードル(りんごの発砲酒)。伝統的にボウルかカップで提供される。アルコール度数は5度前後。軽い味わいなのでそば粉のガレットにはぴったりだ。
珍しいのは、「Kig ha farz」という料理。フィニステール県(現在でもフランス語よりもブルトン語が優勢。「フィニステール Finistère」の意味は「地の果て」。ブルターニュ半島の先端エリア)のサン・ルナン発祥の郷土料理。綴りからしてまるでフランス語っぽくない。読み方は「キ・ア・ファルツ、キ・カ・ファース、キッカファー」など。「Kig」は肉、「farz」は詰め物という意味。ルターニュ風ポトフ。豚肉または牛肉の煮込にそば粉の団子が入っているのが特徴。そば粉とラード、牛乳、レーズンを混ぜて練った生地を布袋に入れて、他の具材と一緒に煮込む。もともとは、貧しい農民の料理。豚肉とそば粉だけで野菜は入らなかったりするものもある。各家庭で入れる具は異なる。袋から出された調理済みの「ファルツ」(ブルターニュ風そばがき)は、もみほぐす場合もあれば、塊をスライスしてパン代わりに食べたりもする。
ガレット
食前酒として、陶製のカップで飲むシードル
ブルターニュのそば畑
Kig-ha-farz
Kig-ha-farz
袋の中がそば粉の練り物
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