フランスの歴史と郷土料理5 プロヴァンス(3)「ガルディアン・ド・トロ Gardian de Taureau」
紀元前2世紀にローマの支配下となりローマの商業的拠点となって繁栄したアルルには、さまざまな建築物が建造された。その代表が紀元前90年頃に建造された円形闘技場。やや楕円を描いており、直径約136m、短径約107m、2万5000人収容可能だった。かつてはローマのコロッセオと同じように剣闘士の戦いも行われたが、古代ローマ末期には禁止。やがて闘牛が行われるようになった。ゴッホも観客席がメインの闘技場の絵を残している。ここでは現在も2種類の闘牛が行なわれている。ひとつは、「スペイン式闘牛」(「コリーダ」Corrida)で、マタドールがムレータと呼ばれる赤い布をひらりとかわしながら牛と闘うもの。もうひとつは「カマルグ式闘牛」(「コース・カマルゲイス」 Course Camarguaise)。こちらは雄牛(カマルグ牛)につけたアトリビュと呼ばれる飾りをラズトゥール(闘牛士)が取るというゲーム感覚の闘牛で牛は殺されない。
もちろん闘牛と言えば本場はスペインだが、スペイン語で「闘牛」は「コリーダ・デ・トロス Corrida de toros」。またアンダルシアのコルドバの名物料理に「ラボ・デ・トロ Rabo de toro(オックステールの煮込み)」があるが、この「トロ」とは雄牛、しかも去勢されていない雄牛のこと(牝牛は「ヴァカ Vaca」、去勢された雄牛は「ブエイ Buey」)。どうしてこんな話をするかというと、プロヴァンスの郷土料理「ガルディアン・ド・トロ Gardian de Taureau」について調べていて、以前コルドバで食べた「ラボ・デ・トロ」の美味しさが思い出されたからだ。綴りは異なるがフランス語の「トロ Taureau」もスペイン語と同じく雄牛のこと。では、フランス語で去勢された雄牛は?もちろん「ブフbœuf」。あの「ブフ・ブルギニョンBœuf bourguignon」の「ブフ」(英語のbeefもここから派生。ちなみにフランス語の牝牛は「ヴァッシュ Vache」)だ。
「ガルディアン・ド・トロ Gardian de Taureau」とは直訳すると「トロのカウボーイ風」。伝統的な作り方では、肉を香味野菜、プロヴァンスの赤ワイン、プロヴァンスのマール、オリーブオイルでマリネし、その後、ゆっくり煮込む。オリーブやトマトなどを加えることもあり、付け合せにはカマルグ名産の米が添えられることが多い。元々はカマルグで盛んな闘牛での廃用牛の処理のために考案された料理である。
プロヴァンスの肉といえば、牛でも豚でも鶏でもなく、なんといっても羊(「ドーブ Daube 煮込み」や腿肉をパイで包んで焼いた「ジゴ・ダニョー・アンクルート Gigot d'agneau en croute」などが名物料理)。食用牛の飼育はあまり行われていない。強い日差しと乾燥した気候に強い風、石灰岩質の台地とまばらな草という環境のため、牛よりも粗食に耐えて強健な羊や山羊が主な家畜となっている。当然チーズも、牛乳のチーズよりも山羊乳のチーズ(シェーブル)が主流。有名なのは栗の葉に包まれた「バノン・ア・ラ・フォイユ Banon a la Feuille」。産地はプロヴァンス地方バノン高原。プロヴァンスのハーブを食べた山羊のミルクを使って造られ、栗の葉の香りがミルクの香りをさらに引き立てている。古くから各家庭でつくられていたが、以前はタイムやローズマリーといった、その土地のハーブをまぶしただけのものだったようだ。
またプロヴァンスの代表的なサラダが、シェーブルを使った「サラド・ド・シェーブル・ショー salade de chevre chaud」。シェーブルにオリーブ油をかけてオーブンで焼き、好みでハーブや胡椒をたらしてレタスやサラダ菜、トマトを盛り合わせる。南仏では普通、トーストを別添えにするようだが、パンに載せて焼いたチーズトースト風にして食べることも多い。
「サラド・ド・シェーブル・ショー Salade de Chevre chaud」
「ガルディアン・ド・トロ Gardian de Taureau」
カマルグの黒牛
「ジゴ・ダニョー・アンクルート Gigot d'agneau en croute」
アルル 円形闘技場 外観
アルル 円形闘技場 内部
ゴッホ「アルルの円形闘技場」エルミタージュ美術館
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