「ミケランジェロとシスティーナ礼拝堂天井画」7 ミケランジェロのメッセージ④「預言者ヨナ」

 システィーナ礼拝堂のミサに集う人々が祭壇を見上げると目に飛び込んでくるのが「預言者ヨナ」。今は、祭壇画「最後の審判」が描かれているためそちらに関心が集中するが、「ハマンの懲罰」、「青銅の蛇」以上にミケランジェロはこの「預言者ヨナ」に重要な位置を与えているようだがなぜだろう。絵画の主題として取り上げられることもほとんどない、エリヤ、イザヤ、エレミヤのような大預言者と呼ばれる人々をさしおいてヨナを描いたのはなぜだろう?ヨナの物語は、他の預言者比べてその特徴はどこにあるのだろうか?  ヨナは神から命じられる。

「さあ、大いなる都ニネベに行って、これに呼びかけよ。彼らの悪はわたしの前にとどいている。」

 しかしヨナは神の命に従わない。ニネベは残忍さと暴虐で悪名高いアッシリヤの首都。イスラエルの敵国、異邦人の都。そこまでの距離は800km。ヨナは神から逃れようと船に乗り込んでタルシュに向かう。

「主は海に向かって大風を放たれたので、海は大荒れとなり、船は今にも砕けんばかりとなった。」

 原因が自分にあること知っているヨナは恐怖に陥っている船乗りたちに言う。

「わたしの手足を捕らえて海にほうり込むがよい。そうすれば、海は穏やかになる。」

「(船乗りたちが)ヨナの手足を捕らえて海へ放り込むと、荒れ狂っていた海は静まった。」

 ヨナはどうなったか?

「主は巨大な魚に命じて、ヨナを呑み込ませられた。ヨナは三日三晩魚の腹の中にいた。」

 ヨナはこのような死に直面した状況の中で神に立ち帰る。

「苦難の中で、わたしが叫ぶと/主は答えてくださった。陰府の底から、助けを求めると/わたしの声を聞いてくださった。・・・息絶えようとするとき/わたしは主の御名を唱えた。わたしの祈りがあなたに届き/聖なる神殿に達した。偽りの神々に従う者たちが/忠節を捨て去ろうともわたしは感謝の声をあげ/いけにえをささげて、誓ったことを果たそう。救いは、主にこそある。」

 神はヨナに応える。 「主が命じられると、魚はヨナを陸地に吐き出した。」

 ヨナは決して強い人間ではない。しかし神は再びヨナに同じ命令を下す。ヨナは今度は主の命令どおり、直ちにニネベに向かい「あと40日すれば、ニネベの都は滅びる。」と告げる。ニネベの住民はあのソドムの住民とは違った。

「ニネベの人々は神を信じ、断食を呼びかけ、身分の高いものも低いものも身に粗布をまとった。」

 それを知った王は、布告を出して人々に断食を命じる。

「おのおの悪の道を離れ、その手から不法を捨てよ。そうすれば神が思い直されて激しい怒りを静め、我々は滅びを免れるかもしれない。」

 神は計画を変更する。

「神は彼らの業(わざ)、彼らが悪の道を離れたことを御覧になり、思い直され、宣告した災いをくだすのをやめられた。」

 ミケランジェロは一貫して悔い改め、神への立ち帰りを求めている。どんなに腐敗し、堕落した者だろうと、悔い改めたものを神は見棄てない、救いの手を差し伸べられる、イスラエルの敵であったあの残虐非道のアッシリアの首都ニネベを赦したように。だから神の深く広い愛を信じて悔い改めよ、と。

 (「ヨナと大魚」メトロポリタン美術館)

(「海に投げ込まれるヨナ」)

(ピーテル・ラストマン「ヨナと大魚」デュッセルドルフ クンストパラスト美術館)

(ギュスターヴ・ドレ「ニネベの人々に説教するヨナ」)

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