ヨーロッパの夏空の下11 ウィーン美術史美術館③ドメニコ・フェッティ「エジプトへの逃避」
イエス誕生直後の出来事の中で、多くの画家によって描かれたテーマの一つに「エジプトへの逃避」がある。イエスがベツレヘムで生まれた時、占星術の学者たちがエルサレムに来てこう言う。 「ユダヤの王としてお生まれになった方は、どこにおられますか。わたしたちは東方でその方の星を見たので、拝みに来たのです」(『マタイによる福音書』2章)
自分の地位が脅かされると思ったヘロデ王は不安を抱く。そして占星術の学者たちを呼び寄せ、その子がベツレヘムで生まれたこと、星の現れた時期を確かめる。そして、彼らにこう言う。
「行って、その子のことを詳しく調べ、見つかったら知らせてくれ。わたしも行って拝もう」(同上)
もちろんこれは嘘で、イエスを見つけ出して抹殺するためだ。しかし、学者たちがイエスを拝んだ後、彼らに「ヘロデのところへ帰るな」と夢でお告げがあったので、ヘロデのところには戻らず自分たちの国へ帰ってしまう。占星術師たちに騙されたと知ったヘロデは激怒。そして恐るべき行動に出る。
「ベツレヘムとその周辺一帯にいた二歳以下の男の子を、一人残らず殺させた。」(同上)
イエスを特定できないため、該当しそうな年齢、場所の男の子を皆殺しにしたのだ。イエスの一家はどうしたか?イエスを礼拝に来た占星術の学者たちが帰って行った直後に、主の天使が夢でヨセフに現れてこう言った。
「起きて、子供とその母親を連れて、エジプトに逃げ、わたしが告げるまで、そこにとどまっていなさい。ヘロデが、この子を探し出して殺そうとしている。」(同上)
神に忠実なヨセフは、朝を待たず、すぐに起きて夜のうちにイエスとマリアを連れてエジプトに向かって旅立つ。 このような状況下でなされた「エジプトへの逃避」は非常な緊迫感を伴うものだったと想像できるが、これまで目にしてきたこの主題の絵画は、自然の中をのんびり旅をしている穏やかな風景画のような作品ばかりだった。今回ウィーン美術史美術館で足を停めさせられた作品も、最初は同様の感想を持った。ただ気になるものが描かれている。道端に眠っているかのように横たわる二人の幼子。何を描いているんだろう。すぐには気づかなかった。イエスの一家がエジプトへの旅を続けている時に行われていた幼子の大量虐殺の犠牲者なのだ、この二人の幼子は。この存在が、一家の旅が決して仲睦まじい一家の穏やかな旅などではないことを教えているのだ。
(アダム・エルスハイマー「エジプトへの逃避」アルテ・ピナコテーク)
(ジョット「エジプトへの逃避」スクロヴェーニ礼拝堂)
(カラヴァッジオ 「エジプトへの逃避途上の休息」ドーリア・パンフィーリ)
(ギルランダイオ「嬰児虐殺」サンタ・マリア・ノヴェッラ教会 トルナブォーニ礼拝堂)
(ドメニコ・フェッティ「エジプトへの逃避」ウィーン美術史美術館)
0コメント