ヨーロッパの夏空の下8 ルーヴル美術館様変わり
毎年のようにパリを訪れ、毎回1~3回は足を運んだルーヴル美術館。今回初めて訪れることなく今日パリを離れる。パリに着いた翌日10時すぎにルーヴルに到着。今まで目にしたことのない長蛇の列。しかもほとんど行列が動かない。2時間並んでも入れるかどうか。翌々日、これなら大丈夫だろうと開館1時間前に到着。これまでなら、最前列に並べた。確かに行列はほとんどできていない。ところが、チケットを持った訪問者しか入れないことが判明。これまで一度も事前にチケットを購入したことなどなかった。この数年、中国人団体客の急増は感じていたが、その影響がこんな形にまでなるとは。
今回、ウィーンでも恐るべき光景を目にした。ウィーン・フィルの本拠地「楽友協会」の「黄金ホール」を一度体験したくて、観光客向けのコンサートを予約。大きな期待はしていなかったが、団体客を避けようと思って1人1万3千円のプレミアム席を予約。ところが、まわりは中国人の団体客だらけ。開始直前まで大声でしゃべりながら写真を撮りまくるは、コンサートが始まってからもずーっとスマホをいじっているは。ドレスコードなどまるで無視した多くのジャージ姿の若者。知っているメロディーが演奏されると一緒になってハミング。それが一人や二人じゃない。曲の途中で拍手するは、くちゃくちゃ音を立てながら何か食べている男までいるは。さすがに彼は隣のアメリカ人らしき女性に注意されていたが。世界一とも言われる音響設備のよさこそ実感できたが、不愉快な思いの方が強く残る初めての楽友協会体験だった。 おそらく有名観光地はどこでも似たような状況が生まれていることだろう。これからの旅の行先を再考する必要がありそうだ。
もちろんパリも、宿泊したモンパルナス近くのダゲール通りなど落ちついた雰囲気は以前と変わらない。美味しい魚屋は7月末か8月初めの日曜の午後から長期のヴァカンスに入るのも変わらない。スマホなどいじらないでカフェで会話を楽しむ老若男女の姿も昔ながら。日本では味わったことのない美味しいイチジクを売っているBioの八百屋。大部分が歩行者天国になっているのもうれしい(道路が整備されたり、チェーンのジェラート店「Amorino」ができたり変化がないわけではない)。それでも、こういった自分好みの場所はビュット・ショーモンとかモンマルトル界隈とか限られた場所にしかなくなりつつあるように感じる。今回モンパルナス駅近くも大々的なビルの解体工事が行われていた。セーヌ沿いの道も舗道の拡張工事で大渋滞。オスマンのパリ大改造がそうだったように、年月とともに真新しさが味わい深さへと変わっていくのだろうが、ボードレールがパリ大改造を批判したように、失われるものも大きいように思う。
「古いパリはもうなくなった(都市の形の変化の早さは、ああ!
人の心のそれにも勝る)。
もはや心に描くばかりだ あの建てこんだバラックの群れ、
つくりかけの柱頭の飾りや丸太の あの山積み、
生い茂る草、水溜まりの水で緑に染まった巨大な石材、
さらには、窓越しにきらめく、雑然としたがらくたなどは。
・・・・
パリは変わる!けれど私のふさぐ心の中では 何一つ
動いていない!新しい宮殿も、足場も、石材も、
古い場末の街も、全ては私にとって寓意となり、
わがなつかしい思い出は岩よりもなお重いのだ。
・・・・ 」(ボードレール「白鳥」)
スマホの普及が便利さと引き換えに、コミュニケーションの機会を着実に奪っているように。1年に一度しか来ないからこそ、東京の多摩市という場所では実感しづらい時代の変化をヨーロッパに来ると感じる。それは進歩というより終末への道であるような気がしてならない。杞憂であってほしいが。
(開館30分前【8:30】のルーヴル美術館)
(ヴェンプの蚤の市)変わらないパリ
(ヴェンプの蚤の市)
(ヴェンプの蚤の市)毎年目にする光景。4人でカード。仕事する気があるのかないのか。
(ダゲール街)変わらないパリ
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