ナポレオンをめぐる女たち⑤ ジョゼフィーヌ1
ナポレオンの軍人としてのデビュー戦は1793年の「トゥーロン港攻囲戦」(王党派を支援する、イギリス・スペイン連合艦隊が占拠したトゥーロン港を、砲兵隊を活用して奪還))だが、出世街道を邁進し始める出発点になったのは、1795年10月5日に起きた王党派の反乱の鎮圧。パリ中心のサントノレ通りにあるサン・ロック教会で起きたこの「ヴァンデミエールの王党派蜂起」を、街中で大砲を使用するという大胆で迅速果断な指揮によって鎮圧したナポレオンは、国内軍最高司令官に任命される。そしてようやく社交界でも一目置かれるようになった。ナポレオンがジョゼフィーヌと知り合ったのはその頃である。
拝命後直ちに、ナポレオンは「武器の所持禁止令」を布告し、すべての家から武器を押収した。そんなある日、14歳の少年が執務室に入って来て、父親の形見の剣を返して欲しいと懇願。ナポレオンは願いをかなえてやる。ほどなく、少年の母親が礼を述べに訪れた。ナポレオンとジョゼフィーヌの最初の出会いだ。
当時ジョゼフィーヌは社交界の花形として通ってはいたが、花の盛りはとうに過ぎていた。ナポレオンより6歳年上の32歳の未亡人で二人(14歳の息子ウジェーヌと12歳の娘オルタンス)の子持ち。 しかし、ナポレオンはこの時からジョゼフィーヌの魅力のとりこになる。彼女の魅力とは何だったか。
彼女はカリブ海のマルティニック島の農園主の娘に生まれ、「クレオール」(西インド諸島、中南米などで生まれ育ったヨーロッパ人)特有の浅黒くエキゾチックな色の肌とけだるい官能的雰囲気を漂わせていた。パリの社交界で特に目立つほどの美人ではなかったが、物腰は優雅で、眼差しは蠱惑(こわく)的。貴婦人にありがちなつんと取り澄ました高慢な素振りとは無縁。コルシカの貧乏貴族の小倅(こせがれ)にすぎないナポレオンは、身も心も燃え尽きてしまいそうなほど彼女に夢中になる。初めて一夜を共にした翌日にジョゼフィーヌに宛てた手紙はこうだ。
「朝の七時に。
僕は君(tu:親しい間柄で使われるフランス語の二人称)への思いに満ちて目を覚ましました。君の肖像画と心をとろけさせる昨夜の思い出が、僕の感覚にすこしの休息も許さないのだ。やさしく、比類なきジョゼフィーヌよ、あなた(vous:丁寧なフランス語の二人称)は僕の心になんという不思議な感銘を与えたことか!あなたは怒っているのだろうか?あなたが悲しんでいるのを見ることになるのだろうか?あなたは不安を感じているのだろうか?僕の心は苦しみに引き裂かれ、あなたの恋人には一時(いっとき)の休息もない・・・・。けれども、僕を支配する深い感情に身をゆだね、あなたの唇と心から身を焼く炎を汲み取っている時には、それ以上なのだ。ああ、昨夜、僕にははっきりとわかった。あなたの肖像画はあなたではないのだ、ということが。君は正午に外出する。三時間後に会おう。それまでの間、わが愛しき人よ、千回のキスを受けてくれ。けれども、僕にはキスをよこさないでけれ。それは僕の血を燃え上がらせるから。」
こんな手紙を受け取ったジョゼフィーヌはどう感じたのだろうか?
(ヴァンデミエールの反乱を鎮圧するサン・ロック教会前のナポレオン)
(ヴァンデミエールの反乱を鎮圧するサン・ロック教会前のナポレオン)
(アンリ・フェリックス・エマニュエル・フィリッポトー「ナポレオン」)若きナポレオン
(ウジェーヌに父親の剣を返すナポレオン)
(プリュードン「皇后ジョゼフィーヌ」)
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