蕎麦の話⑦ 「玄蕎麦」・「丸抜き」・「生蕎麦」・「二八蕎麦」

 稲の果実である籾(もみ)から籾殻(もみがら)を除去し、精白していない状態の米を「玄米」(「玄」=赤または黄を含む黒色)と言うが、蕎麦の実の場合は殻のついたままの実を「玄蕎麦」(「殻蕎麦」)と呼ぶ。この玄蕎麦からそば殻(外皮)だけを取り除いて、そのままの形をとどめている状態のそばの実が「抜き実(丸抜き)」。玄蕎麦の黒い殻はかなり固いので1時間ほど給水させてから茹でるなどといった少々の加熱では殻自体は固いまま。徳島の郷土料理に「蕎麦米汁」があるが、「蕎麦米」とは玄蕎麦をゆでてそば殻を取り除き、乾燥したもので、やはり固いそば殻は食べない。除去されたそば殻は、枕の詰め物として昔から使われてきた。「蕎麦殻枕」は通気性・放湿性に優れているため、蒸し暑い日本の夜でもサラッと涼しく快適に眠れるすぐれもの。ただし、近年は蕎麦アレルギー等の理由で、蕎麦殻枕の需要は伸びていないため、家畜飼料や蕎麦殻燻炭として土壌改良材に利用されたりしている。ところで、そば殻(外皮)を取り除くときに粉が出るが、それが花粉=「打ち粉」。そばを打つときに道具にくっつかないようにする目的で使用されるが、原料が同じそばなので風味を害することはない。

 「丸抜き」は、外側から中心部に向かって、種皮(甘皮)→胚乳→胚芽という構造になっているが、石臼で挽かれると中の柔らかいところ(胚乳)から粉になって出てくるので、製粉の最初のほうはでは中心部が取り出され、後になるほど外側の硬い部分が粉になって出てくる。最初が、「一番粉」=「更科粉」(胚乳の純度の高い真っ白な粉)で「更科蕎麦」という白い蕎麦の原料となる。胚乳の部分は色が白くほとんどがデンプン質で、タンパク質を含んでいない。そのためくっつきが悪く、それだけで麺にするのは非常に難しい。つるっとした食感を生み出すが、香りはあまりない。続いて「二番粉」。胚芽や甘皮部のところも含まれる。ここにはタンパク質が含まれており、また香りも強くなってくる。さらに「三番粉」。より硬い部分が製粉され、甘皮の部分も粉となり、二番粉より香りが強くなり栄養価も高くなる。ただ、繊維質が多くなってくるため、食感は悪くなってくる。 

 精製は、以上の粉をいろいろな割合でミックスして、仕上げる。そば粉は、胚乳部・胚芽部・甘皮部のバランスによって色、香り、食感が変わるため、つなぎを全く使わない「生蕎麦(きそば)」「十割蕎麦」でも違いが出てくる。

 ところで、江戸の蕎麦屋の多くが「二八そば」の看板を店の前に建てて営業するようになったが、この「二八」の由来については、二八で十六文の代価説とつなぎ配合率説(そば粉八割、小麦粉二割)がある。そばの値段が十六文の頃こういう呼び方をされ、慶応年間(1865~68)以降そばの値段が二十文を超えてからは、そば粉八割、小麦粉二割のそばを指したというのが有力な説。しかし、「二八うどん」、「二六にゅうめん」や「一八そば」、「三四そば」もあったというから、代価説の方が優勢のように思うが、いまだに決着はついていない。 

(料理人たちが立ち働くそば屋の店内 『是高是人御喰争』)

(蕎麦の実の構造)

(そば殻)

(蕎麦の実 「玄蕎麦」)

(蕎麦の実 「丸抜き」)

(上野山下の二八そば店 『花の御江戸』)

(豊国「鬼あざみ清吉」四代目市川小団次)

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