「滝浴み 夏月(かげつ)の炎暑を避ける」③
葛飾北斎の代表作と言えば「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」。「グレートウェーブ」の愛称で今や世界中で愛されている作品だが、北斎は、このダイナミックな波をはじめ、さまざまな水の表情を描いた作品を残している。そのひとつが、『冨嶽三十六景』と並行する形で天保4年に発行された『諸国滝廻り』(現存する絵は8点)。北斎が手掛けた風景版画の中でも名品と名高い傑作。いづれの絵も、瀑布を流れ落ちる水のダイナミックな動きを様式的に表現する一方、それを眺める人々を配置することで、雄大で神秘的な自然と卑俗で小さな人間との対比を強調している。その中から3点。
①北斎「諸国滝廻り 下野黒髪山きりふりの滝」
現在、「華厳の滝」、「裏見の滝」とならぶ日光三名瀑の一つに数えられる「霧降の滝」。当時は日光東照宮への途次、参詣人のほとんどがここに立ち寄り、この名瀑を見物して旅の疲れを癒したといわれる。北斎は岩にあたって変化する水の流れをまるで木の根のようにグラフィックに描いた。さらに、滝壺の水しぶき、水面が見事に描き分けられている。
②北斎「諸国滝廻り 木曾路ノ奥阿弥陀ヶ瀧」
岐阜県郡上市白鳥町にある瀧で、落差が80メートルにも及ぶ名瀑の一つ。16世紀に白山の僧侶道雅がここの洞窟で祈ったところ阿弥陀如来の姿が現れたところからこの名がついた。徳川時代には、白山詣でのついでに訪れる人が多かったという。瀑布の描き方は、上の川水の部分を含めてかなり様式的であり、川水と滝も一体感が感じられない(川水は「仏の世界」、滝は「この世」と対比的に描いているのだろうか)は。白山詣での人たちと思われる瀑布の傍らの地面に蓆を敷いている人々がいかにも気持ちよさそうくつろいでいる。
③北斎「諸国滝廻り 相州大山ろうべんの滝」
この滝は、神奈川県大山山中にある滝で、8世紀の僧侶良弁が大山を開山したことにちなんで名づけられた。大山は、江戸近郊の霊山として、江戸中期以降、大山参りが盛んになった。本図は、その滝で水垢離をとる大山講の人々を描いている。浮世絵にもよく登場し、広重や国芳も描いている。北斎のそれと比較することでそれぞれの特徴を知ることができる。
(北斎「諸国滝廻り」3作品)
(北斎「諸国滝廻り 下野黒髪山きりふりの滝」)
(北斎「諸国滝廻り 木曾路ノ奥阿弥陀ヶ瀧」)
(北斎「諸国滝廻り 相州大山ろうべんの滝」)
広重、国芳の作品と比較することで、北斎の水の動きへの関心の高さが明白になる
(広重「関東名所図会 相模大山良弁之滝」)
(国芳「大山良辨瀧」)
(北斎「富嶽三十六景 神奈川沖波裏」)
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