「ローマに溢れる《S.P.Q.R》」

 ポポロ広場から放射状に伸びる3本の通り。真ん中がヴェネチア広場まで約1.5km続くコルソ通り。東側の通りがバブイーノ通り。昨日帰国したが、ホテルを12時に出るまで最後の街歩きに選んだのが、ホテルに近いポポロ教会(最後にもう一度カラヴァッジョの「パウロの回心」を見たかったからだが、前回は開いていなかった「キージ礼拝堂」が中に入ることができたので、ベルニーニの「ダニエル」をじっくり正面から見ることができた)とバブイーノ通り周辺。バブイーノ通りは、スペイン階段下を通っているので、しゃれた店も多く人通りも多いがローマには珍しいイギリス国教会があったり、怪異な「バブイーノの泉」がある。この通りのさらに東側に、ここが観光客であふれかえるスペイン階段近くとは思えないほど静かで、緑あふれる短いけど静かな散歩にはもってこいの通りがある。「マルグッタ通り」。小さなホテルやブティック、ギャラリー、レストランもあるが、「ローマの休日」が撮影された場所として映画ファンに知られている。ローマを訪問中のアン王女(オードリー・ヘプバーン)は自由のない生活に嫌気が差し、滞在している宮殿を抜けだす。夜のローマで出会うのがアメリカ人新聞記者ジョー・ブラッドリー(グレゴリー・ペック)。そして招き入れられるのが「マルグッタ通り51番地」の彼のアパート。現在はアトリエになっている。この通り、ポポロ広場とスペイン階段の間という便利な場所にありながら、その落ち着いた佇まいからか芸術家たちに愛され、かつてパブロ・ピカソやデ・キリコもここにアトリエを構えていた。ここを散歩していていかにもローマ風の洒落た彫刻の施されている泉に出会った。隣のブティックのマダムがペットボトルに水を汲んでいたが、のどを潤したり花を生けるのに使ったり人々の生活に溶け込んでいる。もうひとつ印象に残ったことがある。この泉に刻まれた《S.P.Q.R》の文字。ローマの街を歩いていると頻繁に目にする。流しっぱなしの水道、マンホールのふた、工事用の柵、立ち入り禁止の立て札、白タクと区別されるローマ市公認のタクシー・・・。ローマ市の紋章だ。何を意味するか?ある言葉の頭文字を並べたもの。「Senatus Populus que Romanus」(セナートゥス・ポプルス・クェ・ロマーヌス)。意味は「元老院と民衆のためのローマ」。古代ローマの共和政を誇りにしたラテン語の標語で、現在もローマ市が紋章としていて用いているのだ。ローマについて考えるとき何度も読み返している本がある。河島英昭『ローマ散策』である。その中にこんな一節がある。 「長年、ローマのことを考えてきた。いまでも考えつづけている。たとば首都ローマにあって、首都トウキョウにないものは、何か。たとえばまた、ローマを象徴する標語は、何か。その精神の元にあるものは、何か。答えを、最終章のタイトルに選んでみた。」  そしてその最終章のタイトルが「S.P.Q.Rと異神たち」なのだ。ロムルスによって建国されたローマは、紀元前509年、第7代の王タルクィニウスを追放し共和制を敷いた。この共和政ローマの標語であり国旗に刻まれたのが《S.P.Q.R》。帝政になっても消えることはなかった。そして現在にまで至っているのだ。ローマから何を学ぶか、東京はどのような都市として築かれていくべきか、その核心に何を据えるのか。そのヒントがこの《S.P.Q.R》の4文字にあるように思う。

(「バブイーノの泉」)

(マルグッタ通り)

(マルグッタ通りの泉)

(《S.P.Q.R》マンホールのふた)


(《S.P.Q.R》工事用の柵)

(《S.P.Q.R》水道)

(《S.P.Q.R》「雌狼とロムルスとレムス」カピトリーニ美術館)

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