「紫陽花のイメージいろいろ」

  長い梅雨の間を和ませてくれる花といえば紫陽花。雨に濡れると一層鮮やかさを増し、まさに梅雨の花にふさわしい。ことに雫を含んだ紫陽花が、梅雨の季節の束の間の朝日をあびて照り輝いく姿はため息が出るほど美しい。

     「紫陽花に 雫あつめて 朝日かな」(加賀千代女)

 集まる意の「あず」と、その色の「真藍(さあい)」が合わさって「あじさい」となったのが紫陽花の語源だが、別名「七変化」、「八仙花」と呼ばれる。白に始まって青、紫、淡紅と時とともにその色を変化させる。

     「紫陽花の 末一色と なりにけり」(一茶)

 実際には、色の変わるのはがくの部分のようだが、一茶は最後の一色となった紫陽花の美しさ、散り際の美しさを詠っているのだろうか。

 紫陽花の花に、雨に濡れてじっと耐える花、日陰の花をイメージした作家もいる。永井荷風だ。短編小説『あぢさゐ』を書いた。主人公お君は女郎。明るく純真だが、境遇がら、体の血が騒ぐ。くるわで、美男の三味線ひきの宗吉に惚れ、店を飛び出し、無住の寺に隠れ住むが、もともと男好き。昼近く、境内でマキ割りをしていた近所の辰治の若さにひかれ、ひとときをともにするが、情がからんで辰治に殺される。こんなお君もまた紫陽花の多様なイメージのひとつなようだ(単に日陰者としてだけではなく、移り気のイメージもお君には与えられている)。

 紫陽花はフランス語でHortensia(オルタンシア)。そして日本にシャンソンブームを起こした女性歌手イベット・ジロー(Yvette Giraud)の代表曲が『Mademoiselle Hortensia マドモアゼル・オルタンシア』。彼女がこの曲を最初に歌ったのは、1945年暮れ、パリ解放に功のあった連合軍兵士たちの前だった。日本で「あじさい娘」というタイトルで日本語訳され、リズミカルで底抜けの明るさから日本でも大いに流行した。歌詞はこうだ。永井荷風のとらえた紫陽花のイメージとはまるで異なる。

                「あじさい娘」

 1 パリ 花のパリ 小さい仕立屋に     お針子さんが たくさんいました

   そのお店中で 一番きれいなのは     みなし娘 マドモアゼル・オルタンシア

   お客に親切で お店は大繁盛       この場末の 小さな仕立屋は

   パリで一番 はやり店です        それからは

 2 或る朝のこと 若い紳士が        この仕立屋に 入ってきました

   アジサイ色の レースを取り上げて    これを下さいな マドモアゼル・オルタンシア

   あなたの美わしさは 私の太陽よ     星のほほえむ 真夜中頃に

   馬車が音もなく 入ってきました     それからは

 3 翌朝からは その店先に         娘の顔が 消えていました

   このお店中は 驚きあわて        どこへ行ったのか マドモアゼル・オルタンシア

   けれども噂では 伯爵令夫人       誰も知らない この出来事は

   花咲くパリの 夢のお話

 ところで、紫陽花の花言葉は「威張り屋、無情、あなたは冷たい、移り気、浮気」。紫陽花の花のように移ろいやすい人の心を子規はみごとに表現している。

     「紫陽花や 昨日の誠 今日の嘘」(正岡子規)

 結局、紫陽花も見る人の心を映す鏡なんだろう。

(北斎「紫陽花に燕」)

(広重「紫陽花に川蝉」)

(広重「紫陽花に鮎」)

(筒井年峰「紫陽花と美女」)

(高沢圭一「あじさい」)

(イベット・ジロー Yvette Giraud)


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