「ヴィーナスとローマ建国」①
ローマ建国の父と言えばロムルス。ロムルスの母はアルバ・ロンガ王国の王女でウェスタの巫女であったレア・シルヴィア。なぜ、王女が結婚を許されない(処女でなければならない)ウェスタの巫女になったのか?それは王権をめぐる争いが関係している。彼女の父親は国王ヌミトル。しかし弟のアムリウスが力ずくで王位を奪う。ヌミトルの息子は殺され、娘からも王位継承者が生まれないように巫女にしてしまう。それなのに、どうしてロムルスが生まれたのか?ここがいかにもローマらしいところだが、軍神マルスがレア・シルヴィアに一目惚れし(テヴェレ川で水浴している姿を見て欲情したとも)、彼女が眠っている間に交わってしまった。そして生まれたのがロムルスとレムスの双子の兄弟。アムリウスの命令で双子は籠に入れられてテヴェレ川に流されたが、オオカミに乳をもらって育つ。やがて羊飼いファウストゥルスに拾われ育てられた。成人した二人はアムリウスを倒し、ロムルスがレムスとの争いにも勝利してBC753年にテヴェレ川のほとりにローマを建国した。ここまでは比較的よく知られている。特にローマでは、「メス狼に育てられるロムルスとレムス」の絵、彫刻はマンホールのふたを始め、あちこちで目にする。
ところで、軍神マルス(アレス)はゼウスと正妻ヘラの唯一の息子であり血統的には申し分ないが、神々の嫌われ者。殺戮を好む凶暴で残忍な性格のため父親のゼウスですら疎んじている。この点、同じ戦いの神でも文明的で慈悲深い、正義の戦いを応援する女神アテナとは大違い。ところが、ローマでは人気が高い。建国者ロムルスの父親だからだ。そしてこのマルスを愛人にしていたのがヴィーナス。ローマはヴィーナスの愛人マルスの息子ロムルスによって建国されたのだ。
しかしローマとヴィーナスのかかわりはこんなものではない。ロムルスはアルバ・ロンガ王国14代目の王ヌミトルの孫だったが、このアルバ・ロンガ王国の建国自体にもヴィーナスは深くかかわっているのだ。この王国を建国したのはアスカニウス。父はアイネイアス。そしてアイネイアスの母がヴィーナスなのだ。アイネイアスはヴィーナスと人間アンキセスが交わって生まれた子。だから、アルバ・ロンガ王国はヴィーナスの孫アスカニウスによって建国されたということ。
この事を端的に示す絵がファルネーゼ宮殿にある。アンニーバレ・カラッチの『ヴィーナスとアンキセス』。絵の中に文字が書かれている。「JENUS UNDE LATINUM」。ラテン文学の最高傑作の一つウェルギリウスの「アエネーイス」の冒頭にある言葉だ。意味は「そこからラティウムは誕生した」。「ラティウム」(英語ではラテン)とは、イタリア中央西部地方を指し、都市ローマが建設され場所。つまり、この絵は、ヴィーナスとアンキセスが交わることでローマが誕生したことを描いているのだ。ローマの汲めども尽きせぬ魅力は、こんな神話のストーリーにも由来しているのだろう。
(ボッティチェッリ「マルスとヴィーナス」ロンドン・ナショナル・ギャラリー)
とてもこれが残忍な戦の神とは思えないマルスの眠りこけた姿
(ジャン・ラウー「ウェスタの巫女」リール宮殿美術館)
(ルーベンス「マルスとレア・シルヴィア」リヒテンシュタイン美術館 ウィーン)
ウェスタの巫女レア・シルヴィアに強引に迫る軍神マルス
(「メス狼に育てられるロムルスとレムス」)
(ルーベンス「狼と一緒のロムルスとレムスを発見するファウストゥルス」カピトリーノ美術館)
(ピエトロ・ダ・コルトーナ「双子を妻に渡す連れ帰るファウストゥルス」ルーヴル美術館)
手にしているのはおそらくロムルス。もう一人レムスが狼のもとにまだいることを左手が示しているのだろう。
(アンニーバレ・カラッチ「ヴィーナスとアンキセス」ファルネーゼ宮殿)
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