「ヴィーナスとパンドラ」

  キリスト教においては、人類最初の男性はアダム。しかし神は「男性が1人でいるのは良くない。私は彼に似合う女性を作ろう。」と決意し、アダムの妻としてイヴを造られた。

「神はアダムを深く眠らせ、アダムは眠った。神は彼の肋骨を1本取り、そこを肉で塞いだ。そして神はアダムから取った肋骨で女性を作り、彼女をアダムの元に遣わせた。」(創世記2章21-22節)

 エデンの園で何不自由なく暮らしていたが、蛇にそそのかされてイヴは「善悪の知識の木からは、決して食べてはならない。」という神の命令を破って善悪の知識の木の実を食べ、アダムにも食べさせた。怒った神は二人をエデンの園から追放する。罰としてアダムは労働の苦しみ、イヴは男性による支配と出産の苦しみを与えられることになった。このように、人類の苦しみは人類最初の女性イヴがもたらしたものとされる。

 ギリシア神話では人類最初の女性とされるのはパンドラ。どのような存在として描かれているか? 話は、「犠牲の獣の分け前」についての神々と人間たちとの間での争いにさかのぼる。犠牲に捧げられた牛の「肉と臓物」、「骨」の分配である。当然、人間は「肉と臓物」が欲しい。そこでゼウスと対立し、人類の味方をするプロメテウスは一計を案じる。「肉と臓物」を胃袋に包んでまずそうに見せかけるとともに、「骨」は厚い脂肪でくるんで美味しそうに細工した。神が「骨」を選択するようにするためだ。ゼウスは「骨」を選択した。ただし、騙されたわけではない。ゼウスはすべてを見通していた。それでも、永遠の象徴として「骨」の方が神々にふさわしいと考えたからだ。しかし、自分をだまそうとしたプロメテウスに激怒したゼウスは、人類から火を奪う。プロメテウスはどうしたか。天上から火を盗み返し、再び人間に与えたのだ。ゼウスは、罰としてプロメテウスを岩山に鎖で縛り付け、大鷲に肝臓をついばませることにした。肝臓は夜間に再生。繰り返される激痛。プロメテウスの刑期は3万年。

 ゼウスは、人類にも罰を与えた。「女」を与えたのだ。それがパンドラ。ギリシア神話における人類最初の女性パンドラは人類(それまでは男性だけの社会だった)への罰だったのだ。では、パンドラはどのような存在として創造されたか。まず技術の神ヘパイストスが土と水から女神のように美しい乙女の肉体を創造。そしてオリュンポスの神々が様々な贈り物をした。技術の女神アテナは、女が魅惑的な身体をさらに輝かせる衣裳をつくる機織りの術、美の女神アフロディテ(ヴィーナス)は男を惑わせる女の魅力、そして仕上げに伝令の神ヘルメスが吹き込んだのは泥棒と嘘つきの性分だった。「みんなの贈り物」という意味を持つ「パンドラ」は神々が結集して生みだした魔性の女だったのだ。

(ジャン・クーザン「エヴァ・プリマ・パンドラ」ルーヴル美術館)フランス絵画初の完全な裸婦像

(ミケランジェロ「イヴの創造」システィーナ礼拝堂)

(ヤン・コシエール 「火を運ぶプロメテウス」 プラド美術館)

(ギュスターヴ・モロー「プロメテウス」ギュスターヴ・モロー美術館)

罰として、大鷲に肝臓をついばまれるプロメテウス

(ロセッティ 「パンドラ」リヴァプール国立美術館)

手にしているのはもちろん「パンドラの箱」


0コメント

  • 1000 / 1000