「カエサルとクレオパトラ」

  カエサルが軍団を率いてルビコン川を越えたことで内乱がはじまる。「ファルサルスの戦い」で決定的な勝利を収めたカエサルは、ポンペイウスを追走してエジプトへ向かう。そこで、エジプト王家の内紛に巻き込まれ、クレオパトラに味方し5カ月もの間「アレクサンドリア戦役」を戦う。これは、カエサルがクレオパトラの美貌に惹きつけられたためなどではない。パスカルが「パンセ」で「クレオパトラの鼻がもう少し低かったら、世界の歴史も変わっていたであろう」と記したことから誤解されがちだが、翻弄されたのはアントニウスであって、カエサルは違う。エジプトはローマの同盟国であり、そのエジプトの秩序の回復はローマにとっても重要だったからカエサルはエジプト王家の内紛に関わったのだ。もちろん、仕事面ではストイックでも、プライベートではエピキュリアン(快楽主義者)だったカエサルのこと。戦いに勝利した後のクレオパトラとの2カ月に及ぶナイルの船旅は、兵士と自身の休養、支配領域の巡遊の目的とともに恋人同士の甘い旅という意味もあったのだとは思う。ただ、カエサルは愛することはあっても溺れることはない男。その間にポンペイウスの残党が、北アフリカでカエサル反撃の力を着々と蓄えていたことはもちろん把握していた。絶対王政の国家エジプトを観察することで、自分がこめざす「独裁」実現の戦略構想を練っていたのも確かだ。さらに、ルビコン渡河以降の戦いを総括し、『内乱記』(ルビコン渡河~ポンペイウスの死)全三巻を完成させている。だからこそ、次の戦い(「ゼラの戦い」)では、応援に駆け付けたカエサルは短時間で鮮やかな勝利を収めた。そして元老院に報告した。「来た、見た、勝った」と。

 ところで、世界三大美女のひとりとされるクレオパトラ。映画では、エリザベス・テーラー、クローデット・コルベール、ヴィヴィアン・リー、モニカ・ベルッチらが演じ、白人美女のイメージが強いが実際はどうだったのだろうか?2008年に妹アルシノエの墓が発見され、埋葬されていた彼女の遺骨を分析したケンブリッジ大学エジプト学博士サリー・アン・アシュトンが、クレオパトラの復顔を試みた。 彼はこう述べる。

「(クレオパトラの)プトレマイオス王朝はギリシャ系だったものの、初代のプトレマイオス1世から200年も経過する内に外見はほとんど当時のエジプト人と変わらないものになっていたでしょう」

 BBCで流された映像では、アフリカ系女性そのものの顔立ちだった。制作が予定されている新しいクレオパトラ映画の主演はアンジェリーナ・ジョリー。これまでの解釈とは違い、クレオパトラをセクシーな妖婦としてではなく、政治家・策略家として描いたものになるという。公開が待ち遠しい。

(《クレオパトラの復顔》2008年12月 BBC放送)

(映画「クレオパトラ」1963年アメリカ 主演 エリザベス・テーラー)

(映画「クレオパトラ」1934年アメリカ 主演 クローデット・コルベール)

(映画「シーザーとクレオパトラ」1945年イギリス 主演 ヴィヴィアン・リー)

(映画「ミッション クレオパトラ」 2002年フランス 主演 モニカ・ベルッチ)

(女優アンジェリーナ・ジョリー)

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