「壁を壊した男カエサル」
トランプ米大統領はメキシコ国境沿いに壁を建設するという公約を掲げて選挙戦に勝利した。いまだ実現に至っていないものの、建設の実現に向けての動きは止まっていない。2月27日にはサンディエゴ連邦地裁のゴンザロ・クリエル判事が、サンディエゴ近郊のメキシコ国境沿いにおける14マイル(約23キロメートル)の壁建設に道を開く判断を示した。翌日、トランプはツイッターで「裁判所がわれわれの計画進展を認める判断を下したのは大きな勝利だ。わが国には国境警備が必要だ!」と述べた。
「壁をつくる男トランプ」に対して「壁を壊した男カエサル」のことが頭に浮かぶ。 古代ローマ時代、ローマの街は紀元前6世紀の昔から、6代目の王セルヴィウスが築かせた「セルヴィウス城壁」に囲まれていた。壁の高さは最高で10mで、、全周は11kmだった。その一部がローマの中央駅テルミニ駅の構内にも残されている。この壁の建設目的は、ガリア人の侵入、略奪からローマを守ること。ローマを包囲したカルタゴの名将ハンニバルも、攻撃をあきらめざるを得なかったほどその城壁は堅固だった。しかし、内乱を終結させ、「寛容」(クレメンティア)をモットーに掲げて国づくりを始めたカエサルは、このセルヴィウス城壁を破壊した。それは、単にローマの都心部の拡張のためだけではなく、首都ローマが城壁の必要もないほど平和であることがローマの目指す道であることの高らかな宣言だった。以後ローマは、300年もの間、城壁なしで過ごすことになる。現在ローマに残っている厚さ3.5m、高さ8m、全周19kmの堅固な壁は「アウレリアヌス城壁」。270年に始まった異民族の侵略への対策のために5年の歳月を費やして建設された。
「壁」なしでの異質な他者との共存することは容易ではない。正確な情報共有、深い相互理解が不可欠だ。カエサルの『ガリア戦記』は、元老院への戦勝報告書でありながら、実に詳細に戦った相手方の文化、風習について記述している。第4巻「スエービー族の風習」、第5巻「ブリタニアの風習」、第6巻「ガリアの風習」、「ゲルマニアの風習」などだ。何をやるにしても、それが成功するか否かは、正確な情報を持つか否かにかかっていることをカエサルほど理解していた人間はいない。
(アウレリアヌス城壁のサン・パオロ門)
(アウレリアヌス城壁)
(セルウィウス城壁)テルミニ駅近く
(映画『シーザーとクレオパトラ」のクレオパトラ役のヴィヴィアン・リー)
女性を知り尽くしたカエサルはクレオパトラの魅力にも決して溺れることはなかった
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