「ローマの魅力まるかじり ―巡礼ルート⑨―」
サン・ピエトロ大聖堂にあるベルニーニ作品は、「バルダッキーノ」、「カテドラ・ペトリ」だけではない。ドームを支える四面の支壁には四体の聖人像が置かれている(聖ロンギヌス、聖アンドレア、聖女ヴェロニカ、聖女ヘレナ)がそのうちの「聖ロンギヌス」がベルニーニ作。高さ4.4mの巨像だが、表現されているのは、十字架に架けられたイエスの脇腹を槍で刺したローマの兵士ロンギヌス(聖書にはこの名前は登場しない)がイエスを見上げて、「確かに彼は神の子だった」(マルコ福音書)と叫ぶ瞬間。ベルニーニはその神秘的ドラマを衣襞(ドラペリー)のもたらす光と陰の劇的効果を最大限に利用して表現している。「教皇ウルバヌス8世墓碑」も見事だ。ミケランジェロ以降墓は記念碑的性格が主となり、死の象徴である棺は前面に出なくなったが、ベルニーニはそれを復活させた。棺の両脇に「慈悲の像」と「正義の像」が置かれているが、それ以上に印象的なのは、棺の上に置かれた翼をはやした骸骨。 過去帳(大理石)に教皇の名を記入している。死を深刻にとらえていないある種の軽やかさがいい。バルディヌッチは『ベルニーニ伝』の中で、「この作品を見るためだけでもローマにいく価値はある」と言っている。「教皇アレクサンデル7世墓碑」も素晴らしい。布を模した色大理石(これが大理石でできているとは信じられない!)の上に教皇像が置かれているが、ユニークなのは布の下から手にした砂時計をかかげた骸骨。人の命のはかなさを砂時計で表している。これもどこかユーモアを感じさせる。ところで、この墓碑、「教皇ウルバヌス8世墓碑」とは違って、石棺がない。この墓碑を置くことになった壁龕に、聖堂の出入口があるためだ。しかし、ベルニーニはその悪条件も見事なアイデアで克服した。この出入口を、墓室への入口(冥府への扉)であるかのように表現したのだ。どんな悪条件も、想像力で克服し、新たな世界を展開していくベルニーニの独創力、見事と言うしかない。
(「聖ロンギヌス」)
(「教皇ウルバヌス8世墓碑」)全体
(「教皇ウルバヌス8世墓碑」)部分
(「教皇アレクサンデル7世墓碑」)全体
(「教皇アレクサンデル7世墓碑」)部分
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