「ローマの魅力まるかじり ―巡礼ルート⑧―」
サン・ピエトロ大聖堂と言えば、ミケランジェロの「ピエタ」が有名だが、巡礼路の最終目的地という視点で見ると、重要なのはベルニーニの装飾。入ってすぐに目に飛び込んでくるのは、この大聖堂主祭壇をおおっている「バルダッキーノ」(天蓋)だ。ベルニーニが1624年から33年まで9年間を費やして制作した。
「このブロンズの巨大なバルダッキーノは、建築とも彫刻ともつかず、しかも全体の視覚効果においては絵画的とさえいえるような、総合的な美術作品であり、それが聖堂の巨大な空間をみごとに束ね、同時に周囲の装飾をも引き立立てているさまは、実にみごとというほかない。」(石鍋真澄『サン・ピエトロが立つかぎり』)
そして巡礼の終着点であるアプス(後陣)には、同じくベルニーニ作の「カテドラ・ペトリ」(聖ペテロの司教座)。宙に浮かぶ聖ペテロの司教座(椅子)を4人の博士が捧げ持ち、上方では神の栄光を称えて舞い飛ぶ天使やプットーたちや「栄光」(グローリア)を表わす聖霊(鳩)のガラス絵。ローマ巡礼の最後の到達点を飾るにふさわしい、カトリックの栄光を示す、バロックの結晶だ。入口からこれを眺めると、「バルダッキーノ」が「カテドラ・ペトリ」の額縁に見えるようになっているのも見事なベルニーニの演出。
ところで「サン・ピエトロ」とはイエス十二使徒のひとり聖ペテロ。イタリア語で「ピエトロ」、フランス語で「ピエール」、英語で「ピーター」、スペイン語で「ペドロ」、ロシア語で「ピョートル」。いずれも馴染みのある呼び名。サン・ピエトロ広場には聖パウロとともにペテロ像が設置されているし、大聖堂内部にもアルノルフォ・ディ・カンビオの「聖ペテロ像」が置かれている。パウロはキリスト教最大の宣教者だが、ペテロが聖人のトップに君臨するのはイ、エスから「天の国の鍵」を授けられたことに由来。
「わたしはあなたに天の国の鍵を授ける。」(マタイ福音書)
だからペテロのアトリビュートは「鍵」で、絵画でも彫刻でも必ず鍵を手にした姿で描かれる。またペテロ―は初代ローマ教皇であり、代々の教皇はペテロの後継者として、その紋章にもすべて二本の鍵がデザインされている。もちろんヴァチカン市国の紋章にも描かれている。さらに、驚くことにサン・ピエトロ大聖堂の全体像が鍵の形をしているのだ。
(ペルジーノ「聖ペテロへの天国の鍵の授与」システィーナ礼拝堂)
(ミケランジェロ「ピエタ」) 24歳でこんな作品を作ったとは!ミケランジェロの出世作
(バルダッキーノ)奥に見えるのが「カテドラ・ペトリ」
(「教皇の祭壇」と呼ばれる主祭壇でのミサ)
(サン・ピエトロ広場の「聖パウロ像」)パウロのアトリビュートは剣
(サン・ピエトロ広場の「聖ペテロ像」)
(サン・ピエトロ大聖堂のアルノルフォ・ディ・カンビオ「聖パウロ像」)
(ヴァチカン市国の国旗)
(平面図『ベデガー地図 1909年版』)
聖ペテロがイエスから授かった「天国の鍵」が形象化されていることがよくわかる
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