「ローマの魅力まるかじり ―巡礼ルート②―」

 ポポロ広場からコルソ通りをまっすぐに進むと、「マルクス・アウレリウス記念柱」が目印になっているコロンナ広場に着く。この円柱のてっぺんを見ると人物像が載っている。誰か。聖パウロである。パウロは、イエスと行動をともにした12使徒には入っていないが、異邦人への伝道を行いキリスト教を世界宗教に発展させたキリスト教史上最大の宣教者。もともと熱心なファリサイ派ユダヤ教徒としてキリスト教を徹底的に迫害していた。そんな彼がキリスト信者迫害のため、ダマスコに向かう途中、イエスの声を聞く。新約聖書からその場面を引用する。(「サウロ」は後の「パウロ」のこと)

「さて、サウロはなおも主の弟子たちを脅迫し、殺そうと意気込んで、大祭司のところへ行き、ダマスコの諸会堂あての手紙を求めた。それは、この道に従う者を見つけ出したら、男女を問わず縛り上げ、エルサレムに連行するためであった。ところが、サウロが旅をしてダマスコに近づいたとき、突然、天からの光が彼の周りを照らした。サウロは地に倒れ、「サウル、サウル、なぜ、わたしを迫害するのか」と呼びかける声を聞いた。「主よ、あなたはどなたですか」と言うと、答えがあった。「わたしは、あなたが迫害しているイエスである。起きて町に入れ。そうすれば、あなたのなすべきことが知らされる。」同行していた人たちは、声は聞こえても、だれの姿も見えないので、ものも言えず立っていた。サウロは地面から起き上がって、目を開けたが、何も見えなかった。」(「使徒言行録」9章1節~8節)

 新約聖書の中でも最もドラマチックな場面の一つ。「聖パウロの回心」と呼ばれる場面だ。多くの画家が描いてきた。有名なのは、ウィーン美術史美術館にあるパルミジャニーノ「聖パウロの回心」。ローマでは、ヴァチカン美術館にラファエロの「聖パウロの回心」タピストリー、ヴァチカン・パオリーナ礼拝堂にミケランジェロ「聖パウロの回心」がある。これらの作品に共通するのは、この場面を劇的なスペクタクルとして描いていること。それに対して、カラヴァッジョはパウロの内面で起こった静かなドラマとして描き、その作品は「キリスト教美術史上もっとも革新的」(美術史家ロベルト・ロンギ)と評されている。どこにあるか。ローマの北の入口ポポロ門の脇にある「サンタ・マリア・デル・ポポロ教会」である。その絵にはパウロに回心を促すイエスもイエスを象徴する神の光も描かれてはいない。落馬したパウロは両手を広げて、イエスの声を受け止めている。馬も馬丁もそこで起きている奇跡には全く気付いていない。では、カラヴァッジョは神の声をどう表現したか。パウロが手を広げた先に答えがある。教会のステンドガラス。そこから差し込む光。それと連動させたのだ(だからこの絵は、晴れた日の日中に見るに限る)。つまり、観者を奇跡が眼前で起こっているような錯覚に陥らせ、信仰心を喚起させるようにカラヴァッジョは仕組んだのだ。まさにバロック!パウロは、その後アナニヤによって目を開かれ(聖書には「目からうろこのようなものが落ち、サウロは元どおり見えるようになった。」と記述されているが、実はこれが『目から鱗が落ちる』の語源)、やがて3度の伝道旅行を敢行し異邦人にイエスの教えを説いて回り、キリスト教史上最大の宣教者となっていく。

(コロンナ広場)

(コロンナ広場)「マルクス・アウレリウス記念柱」の「聖パウロ像」

(エル・グレコ「聖パウロ」)

(パルミジャニーノ「聖パウロの回心」ウィーン美術史美術館)

(ラファエロ「聖パウロの回心」タピストリー ヴァチカン美術館)

(ミケランジェロ「聖パウロの回心」ヴァチカン・パオリーナ礼拝堂)

(カラヴァッジョ「聖パウロの回心」サンタ・マリア・デル・ポポロ教会チェラージ礼拝堂)

(サンタ・マリア・デル・ポポロ教会チェラージ礼拝堂)

(パウロの伝道の旅)



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