「フランス人とレジオン・ドヌール勲章」

 今もフランスの最高勲章とされる「レジオン・ドヌール勲章」(L‘ordre national de la légion d’honneur)。フランスへ「卓越した功績」のあった「軍人や市民」に与えられる勲章だが、創設されたのは1802年5月19日創設。創設したのはナポレオン・ボナパルト。彼の意図はこうだ。フランス革命後、地方は無政府状態にあった。秩序を回復し維持するためには、権威を持った新しい支配層を生み出す必要がある。そのためには教育改革が不可欠。しかし、教育は結果が出るまで時間がかかる。すぐに権威を持った人材を生み出すためにはどうしたらいいか。そこで考え出されたのが「レジオ・ンドヌール勲章」。国家への功労者として勲章を授けられた人々は、国家に忠誠を誓う。彼らが新しい支配層となって、勲章受章者という権威で秩序を回復、維持する。こういう戦略だ。 しかし、フランス革命によって「平等」のありがたさを知った人々は当然反発した。

「 平等の原則に反するこんな勲章は、狂信者が支持する独裁に道を開くだけだ。政府はまたぞろ特権階級を作ろうというのか!」

「 新しい貴族階級の胚芽じゃないか!」  

 しかし、ナポレオンはこう反論する。

「 イギリス人には尊敬すべき多くの美徳や長所があるが、フランス人に比べて名誉や栄光を求める心に欠ける。フランス人が自由、平等を愛する国民であるとは、私は信じない。彼らは10年間の革命で変えられはしない。しかしガリア時代の昔から、フランス人は誇り高く、名誉心を持っている」  

 さらに、彼らしい率直さでその効用を語る。

「 昔でも現代でも、勲章のない共和国があったら見せてもらいたいものだ。これをおもちゃにすぎないというのか!いいかね!おもちゃで人間を思い通りにできるのだよ。」  

 法案は僅少の差で立法院をかろうじて通過した。そして、政界・世論の激しい抵抗・反対へ配慮して、ナポレオンが公布するのは2年後の1804年12月。かれが皇帝に就任して直後のことだった。ナポレオンはフランス人の名誉心も戦力化した。そして、この勲章はひとたび制度化されるや国民や兵士に歓迎され、士気の高揚にも大いに役立ったのである。

(ドゥブレ「初のレジオン・ドヌール勲章の叙勲式」ヴェルサイユ宮殿)

(レジオン・ドヌール勲章)

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