「有形無形のものの戦力化」

 フランス革命によって生じた分裂、混乱を収拾し、革命の成果を取り入れた新たな秩序を創設するためにナポレオンは必要なあらゆる手を打った。例えば教育。革命の成果としての「教育の平等」をまず軍の士官教育の場で実行する。身分や階級の上下に関係なく、実力第一主義の入学試験を行い、実践的な教育訓練を重視し、役に立つ士官候補生を軍に送り込んだ。公教育の場でも、教会と教育の分離など、学校教育の改革と近代化を断行し、国家や社会に役立つ実力主義教育制度を推進した。ナポレオンはいう。

「身分や階級で差別しない実力主義の社会をつくることを革命というならば、教育はまさに血を流さない革命である」

 ナポレオンはこうして教育を戦力化した。では宗教についてはどう考えていたか。彼はその「効用」を活用しようとした。

「国家として確固とした永続性のある支えとなるのは、宗教だけである。宗教なき社会は、羅針盤のない船のようなものである。」

「人民は宗教を必要とする。この宗教は政府の手中ににぎられねばならぬ。」

 彼自身は、宗教心の篤い人間ではなかった。しかし、政治や戦争に宗教が役に立つことは知っていた。神の力や救いを信じることは、兵士たちが絶望し自暴自棄に陥るのを防ぎ、逆境に堪えるのに役立つ。また、人間の力を超えた神の力を信じることは、指揮官が自信過剰や独善に陥るのを予防する。なにより、来世の楽園を信じることにより、死の恐怖を少なくし、戦場で勇敢に行動できるようにしてくれる。

 ナポレオンは教育も宗教も戦力化した。彼は「戦力」というものを兵器・兵制面からだけでなく、より総合的にとらえていた。だからこそ有形無形のものを戦力化することに大きなエネルギーを注いだ。そしてそれを推進するために、国家を一元的に管理する必要、すなわち独裁権力を握る必要があったのだ。

(1807年 ダヴィッド 「ナポレオンの戴冠式」 ルーヴル美術館)

(1806アングル「玉座のナポレオン」アンヴァリッド フランス軍事博物館)

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