触覚の目覚め
視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚。人間の五感の中で、画家にとって視覚が重要であるのはもちろんだが、根っからの職人気質のルノワールはこう息子ジャンに説いている。
「指のさきは大切にしなけりゃいけない。指のさきをむき出しにしておくと、触覚がすり減ってしまって、人生の大きな喜びが味わえなくなるかもしれないよ」
10代後半に、磁器の絵付けに携わり、花瓶や皿の装飾を繊細な筆致で描いていたルノワールは、素晴らしく鋭敏な触覚の持ち主だった。肌の表面を柔らかくなでるかの印象を与えるルノワールの描く女性のヌードは、このような触覚の持ち主でなければ描けなかっただろう。
「風景画だったらその中を散歩したくなるようなのがいい。人物画だったら胸や背中をなでたくなるようなのがいい」
ルノワールの絵は、眼を楽しませてくれるだけでなく、観る者の触覚までも目覚めさせてくれる。
(1895年頃 「長い髪の浴女」 オランジェリー美術館)
(1892年 「ピアノの前の少女たち」 オルセー美術館)
(1880年 「眠る少女」マサチューセッツ州ウィリアムズタウン
クラーク・アート・インスティテュート)
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