隠れた宝の発見
ルノワールが数多く描いた少女像の中には『イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢』、『すわるジョルジェット・シャルパンティエ嬢』など強く惹かれる絵が何枚もあるが、ある意味でのルノワールらしさを象徴していると思うのは『ルグラン嬢』だ。パリの上流階級は若手のルノワールに子供の肖像画を描く機会を与えた。イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢はユダヤ人銀行家カーン・ダンヴェールの娘、ジョルジェット・シャルパンティエ嬢はパリ有数の出版社を営むジョルジュ・シャルパンティエの娘。しかしルグラン嬢(マリー=アデルフィン・ルグラン)はそのような上流階級の娘ではない。父も祖父も商店員で、母は帽子づくりの職人という、つつましい家庭の娘である(だからこの絵が誰の依頼で描かれたかは不明)。ルノワールはそのようなごく平凡な家庭の少女の中にも、これから花開き、豊かな実りをもたらすであろう生命力そのものを見出し、表現した。ごく身近な日常生活の中に美を見出したルノワール。この点で、日本の浮世絵の画家たちとも共通する。ルノワールは言う。
「人間でも、風景でも、題材でも、少しも面白いところがないようなものはないね。・・・その面白さは時として奥深くかくされているけれども。誰かある画家が、その隠された宝を発見すると、すぐにほかの連中が、その美しさをわめき立てるようになるんだ。コローじいさんは、他の川と変わったところもないあのロワン河の岸辺の美しさに、われわれの眼を開いてくれたのさ。きっと日本の風景だって、他の風景より(特別には)美しくはないんだよ。ただ、日本の画家たち(浮世絵師たち)は、そのなかにかくれた宝を発見することが出来たんだ」
それまで誰もが目にしてきた人物、風景の中における新たな美を発見し表現したルノワール。生命の讃歌を歌い続けたルノワール。それが多くの人々を魅了する。
(1880年『イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢』チューリヒ ビュールレ・コレクション)
(1876年 『すわるジョルジェット・シャルパンティエ嬢』 石橋財団ブリジストン美術館)
(1875年 『ルグラン嬢』 フィラデルフィア美術館)
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