雪景色と浮世絵

 雪景色を描いた浮世絵で一番好きな絵は、と聞かれたら広重「東海道五十三次之内 蒲原」と答えると思う。しかし、それに匹敵するくらい好みの浮世絵は、広重の「名所江戸百景」だけでも何枚もある。「深川洲崎十万坪」、「びくにはし雪中」、「深川木場」、「愛宕下薮小路」。あらゆるものを美しく白く包みこむ雪景色は、雪月花を愛でてきた日本人にとっては、古くから好んで描かれる美術のテーマだった。しかし、西洋美術は違う。あくまで人間中心の世界観に基づいているため、歴史画や人物画に比べて風景画は長い間低い地位に置かれてきた。風景画は17世紀ごろからようやく独立したジャンルになったものの、重要度を増すのは、バルビゾン派や印象派の登場を待たなければならなかった。

 モネの初期の傑作の一つ「かささぎ、エトルタの冬」。雪の降り積もるノルマンディー地方の庭を逆光でとらえた美しい作品。また、シニャックの「雪のクリシー広場」は、雪の降り積もるパリの街角の情趣溢れる風景を描いている。このような日本的風景のモチーフは、浮世絵を通してもたらされたものだった。ゴッホにも雪景色を描いた作品がある。陽光を求めて南仏アルルに向かったゴッホが目にしたのは予想に反して雪景色だった。アルルの初日は「60センチを超える」積雪と降り続く雪の中で始まる。しかし、その景色をゴッホは手紙の中でこう記す。

「雪の中で雪のように光った空を背景に白い山頂を見せる風景は、まるでもう日本人の画家たちが描いた冬景色のようだった。」

 そして色彩の画家ゴッホらしい「雪景色」(ニューヨーク グッゲンハイム美術館)が描かれた。

(188年 ゴッホ「雪景色」ニューヨーク グッゲンハイム美術館)

(1869年 モネ「かささぎ、エトルタの冬」パリ オルセー美術館)

(シニャック 「雪のクリシー広場」ミネアポリス・インスティテュート)

(広重「東海道五十三次之内 蒲原」)

(広重「名所江戸百景 深川洲崎十万坪」)

(広重「名所江戸百景 びくにはし雪中」)

(広重「名所江戸百景 深川木場」)

(広重「名所江戸百景 愛宕下薮小路」)

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