夜景と浮世絵、ゴッホ

 初めてそれを目にした画家たちにとって、「冬景色」を描いた浮世絵が斬新だったように、「夜景」も新しいモチーフとして映ったように思う。広重「名所江戸百景」にも「両国花火」、「猿わか町よるの景」、「永代橋佃しま」、「京橋竹がし」など夜景を描いた傑作は多いが、ゴッホ兄弟は「猿わか町よるの景」と二代歌川広重「諸国名所百景 京都四条夕涼み」を所有していた。アルルに着いてからゴッホは星空に魅せられ、星空を描きたいとずっと切望していたが、夜景を描いた浮世絵は彼にきっかけを与えたことだろう。もちろん表現スタイルは大きく異なるが。

 浮世絵の表現内容は、季節感や日常生活から遊離した感情や感覚を超えていくことはまずないし、それを目にする者が共通感覚として感受しうるものからはみ出すこともまずない。これに対して、ゴッホが表現するものはきわめて私的な心情である。

 「僕は今、絶対に星空を描きたい。しばしば思うことだが、夜は昼よりもさらに豊かに彩られてい

 る。」

 「星によって希望を表現すること」と宣言し、夜、外で街頭の明かりなどをたよりに描き始める。そして「夜のカフェテラス」や「ローヌ河畔の星月夜」が生まれた。

(1888年 ゴッホ「ローヌ河畔の星月夜」パリ オルセー美術館)

(1888年 ゴッホ「夜のカフェテラス」オッテルロー クレラー=ミュラー美術館)

(広重「名所江戸百景 両国花火」)

(広重「名所江戸百景 猿わか町よるの景」)

(広重「名所江戸百景 永代橋佃しま」)

(広重「名所江戸百景 京橋竹がし」)

(二代歌川広重「諸国名所百景 京都四条夕涼み」)

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