新年の迎え方 ー日本とイタリアー

 日本では、多くのイタリアンやフレンチのレストランがクリスマスは特別メニューを用意するが、大晦日に営業する店はほとんど見かけない。イタリアでは逆だ。クリスマスにレストランで食事するのは観光客ぐらいだが(1999年クリスマス、ミラノに滞在していたがなんと午後から地下鉄も止まった!)、大晦日はどの店も普段より大幅に料金アップした特別メニューを用意。それでも地元客ですぐに満席になる。そして8時ぐらいにスタートする「チェノーネ」(大晩餐。普段の晩餐「チェーナ」に対して大晦日の晩餐はこう呼ばれる)では、11時過ぎになると客にクラッカー(店によっては爆竹)が配られる。カウントダウンが始まり、「アウグーリ」と互いに新年を祝いながらスプマンテやシャンパンで乾杯。クラッカーが鳴らされる。そのあとはダンス、歌の合唱。若者だけじゃない。老いも若きも子供にかえったようにはしゃぎまわる。そして、元旦は完全に寝正月。1月2日からは日常生活がスタート。どの店もオープンし、「正月気分」とは無縁の普段通りの生活が始まるのだ。日本とイタリア、新年の迎え方のなんたる違い!

「 日本でも年越しそばを食べたり、年明けとともに初詣に出かけたりする。しかし時間の質の変わる瞬間をはやしたてたりはしない。テレビの画像も、俗臭ふんぷんたる華やかな番組から除夜の鐘を打つ名刹の聖なる情景へと移行する。境界を通過してゆく時間に対して何の儀礼も行わない。むしろ初日の出の方に厳粛で、神々しい瞬間を感じとる。昨日とも、そして明日とも変わらないはずの今日の自然現象に「初」を発見し、時間の変貌を認識する。・・・どちらかというと日本人は「新しい年」の方に重要性を見ている。しかし西欧人は古い年の去っていくことにことほぎを覚えている。1月1日は確かに祭日であり、休息日ではあるが、何の行事もない。十二月三十一日十二時をもって、儀礼は意味を失う。その後は普段に倍する過剰な遊興に身をひたすだけである。聖なる瞬間は境界を過ぎるあたりで終わり、あとは俗なる時間が進行する。一月一日は宴の後の白けた、ほぼ日常的な時間に支配される。翌二日からは平常通り労働の日が始まる。日本のように長い時間をかけて年の初めを祝うのとは大ちがいである。」(田之倉稔『イタリア四季の旅Ⅰ』)  

 今は法律で禁止されたが、かつてローマでは、新年を迎えると同時に古くなっていらなくなったものを1年間とっておいて大晦日に捨てる習慣があった。その夜のパスタの茹で汁、生ごみ、皿、ワインの瓶。これぐらいならわからなくもない(シチリアが舞台の映画「ニュー・シネマ・パラダイス」に新年と同時に、皿が窓から投げ捨てられるシーンがある)。しかし、古くていらない家具、冷蔵庫まで投げ捨てられ、この風習を知らずに町に浮かれ出た外国人観光客の何人かがあの世に行くこともあった、なんて聞くともう理解不能。しかし、ナポリでは粗大ごみの投棄ではないが、今でも大晦日に小型爆弾並みの花火が飛び交う。テレビのニュースで見たが、町全体が赤く染まり、さながら空襲にでもあったかのような光景だった。

「日本の深閑とした大晦日とは正反対で、花火は上がる、爆竹は鳴る、港で汽笛が道路でクラクションが響き渡る。それでも北イタリアはまだ静かなほう。ナポリの大晦日は、毎年死者が出るほどパワフルである。零時の時報前後の街は、ゴーストタウン化する。爆竹や打ち上げ仕掛花火が各建物から発射され、その数、数十万発単位。よもやその下を通ろうものなら、よくて大火傷、運が悪ければあの世行きである。」(『イタリアン・カップチーノをどうぞ』内田洋子)

 歳のせいか、以前ほど年末年始をヨーロッパで過ごしたいという気持ちは薄くなった。雑煮を食べ、お節料理をつまみに純米酒を味わう、1週間ぐらいはそんな生活がよくなった。クリスマスを過ごすのは、ヨーロッパの原点に触れられるイタリアがいいが、新年は来し方行く末に思いをはせながら日本の自宅で静かに迎えたい。

(「ザンポーネ」Zampone)

豚の赤身、脂身、皮を挽き、 豚足 に詰めてつくる。 クリスマス、年末年始料理の代表格。お金がたまるように、コイン型のレンズ豆と一緒に食べる。ランブルスコとあわせるが、かなりコッテリしているから、今では1枚で十分。

(1999年から2000年の年末年始を過ごしたサルソマッジョーレ[中部イタリア、エミリア・ロマーニャ州]のホテル・ヴァレンティーニ)

  温泉施設が魅力的だった。

(その時の、ホテル・ヴァレンティーニのチェノーネ・メニュー)

 セコンド(メイン)は魚も肉も半分も食べられなかった。隣のばあちゃんがこともなげに完食していたのにはたまげた。イタリアの女性たちは、12月に入るとナターレ(クリスマス)やカポ・ダンノ(大晦日)に備えてダイエットに励むそうだが。

(「コテキーノ」Cotechino)

 豚の赤身、脂身、皮を挽いてつくるところはザンポーネといっしょだが、腸 に詰めるところだけが違う。やはり、ザンポーネ同様 クリスマス、年末年始料理の代表格

(イタリアらしい祭り“Superzampone”)

(ザンポーネ、コテキーノの誕生由来)

あのミケランジェロにシスティーナ礼拝堂の天井画を描かせたユリウス2世が関わっている。

(広重「名所江戸百景 浅草金竜山」)

   静寂さ漂う江戸の冬景色①

(広重「名所江戸百景 湯しま天神坂上眺望」)

   静寂さ漂う江戸の冬景色②  眼下に広がる不忍池

0コメント

  • 1000 / 1000