ヴィーナスの魔力、女性の魔力

ヴィーナスの誕生と言うと何といっても有名なのはボッティチェッリの絵画。でもギリシア神話におけるヴィーナス誕生の経緯の表現としてふさわしいのはアングルの「泡から生まれるヴィーナス」(シャンティイ コンデ美術館)。ここに描かれている泡が問題。ただの泡なんかじゃない。神の精子なのだ。その神とはウラノス。ゼウスの祖父に当たる天空の支配者。話はこうだ。ウラノスの妻は母でもある大地の女神ガイア。二人の間に12神が生まれるが、その後に生まれたのが一眼の三巨人神キュプロクスと百手の三巨人神ヘカトンケイル。その異形に嫌悪感を覚えたウラノスは、彼らを地底に閉じ込めてしまう。それに激怒したのはガイア。どんな異形だろうとかわいい我が子。他の子どもたちに、ウラノスへの復讐を命じる。それに応じたのがクロノス。ガイアから与えられた巨大な鎌で、なんとウラノスのペニスを切り落としたのだ。クロノスが放り投げたペニスは海に落ち、波間を漂う。やがてその肉塊かあの美の女神ヴィーナス(アプロディテ)なのだ。このストーリーを知ることができる絵がフィレンツェにある。ヴェッキオ宮殿だ。ここにはあまり知られていない面白い美術作品があふれているが、そのひとつがこの絵。「四大元素の部屋」にある。こんな経緯で生まれたヴィーナスがただ美しいだけの女神であるわけがない。官能的、蠱惑的、悪魔的と言ってもいい恐ろしさを持っている。その性質はあらゆる女性が持っている。なぜならギリシア神話では、人類最初の女性はパンドラだが、神々から様々な贈り物を与えられて誕生した(「パンドラ」とは「あらゆる贈り物」の意)。そして、ヴィーナスが贈ったのがこの男どもを悩ます官能性だったのだ。ヴィーナスがどんなに恐ろしい女神かを知ると、美の破滅的な魅力、女性の魔性の一端を知ることができるように思う。危険と分かっていても女性の魅力から離れられない(自由になれない)男性諸君、ヴィーナス(アプロディテ)を大いに学んでわが身を守ろう。

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