「宗教国家アメリカの誕生」21 アメリカ独立戦争(4)アメリカ独立の確定

 サラトガの勝利後も、ワシントンの率いる大陸軍自体は、大陸会議からの食料や装備の支給も思うにまかせず、脱走兵や投降者も多く出て困難を強いられていた。大陸軍は兵力不足を補うためにも黒人兵を登用しはじめ、1778年の夏にニューイングランドおよび中部には755人の黒人兵がいた。1778年初めにヘンリー・クリントンがイギリス軍の最高司令官(1778~82)に就任すると、イギリス軍はフィラデルフィアを撤退し、戦線は南部へと移動。独立戦争の後半戦は、おもに南部が舞台となる。本国側は南部には忠誠派が多く潜在していると考え、向かうことでその勢力を顕在化させ、この地域を分断して支配下に置こうとしたのである。忠誠派が多いとの見込みは正鵠を射てはいなかったものの、一部地域では愛国派と忠誠派の地域住民同士による内戦の様相を呈することになる。

 大陸軍の南部方面軍最高司令官に任命されたナサニエル・グリーン将軍は1781年に攻勢に転じ、3月にノースカロライナのギルフォードで、チャールズ・コーンウォリス将軍の率いるイギリス軍の主力部隊を大敗させた。敗れたコーンウォリスはヴァジニアのヨークタウンに部隊を移し、決戦に備える戦術をとった。それに対して、ニューヨークから移動したワシントンが、まずはじめにフランス領西インド諸島を出発したフランス艦隊と共同作戦を立てて、イギリス艦隊を打ち破る。次いで米仏両軍が砲撃で優勢に立つ中で、10月19日にコーンウォリスは降伏した。そして、この戦いにおける敗北で、イギリス議会はついにアメリカと和平交渉に入ることを認める。

 イギリス側は戦争終結後をにらんで、アメリカに寛大な条件で講和を結ぶべく、フランス側には内密に、フランクリンらアメリカ側の使節とパリで交渉を開始。1782年、両者間で単独講和の予備条約が成立し、翌83年、正式にパリ条約が調印された。この条約でイギリスはアメリカの独立を認め、ミシシッピ川以東の領土を割譲した(アメリカの領土は、独立戦争終了段階の時点と比べて2倍になった)。同年には、イギリスとフランス・スペイン間で条約(ヴェルサイユ条約)が結ばれ、フランスはイギリスから若干の領土を得たが、莫大な戦費に見合うものではなく、これがフランス革命の遠因の一つともされる。一方、スペインはイギリスからフロリダを取り返した。

 ところで、絶対王政の君主、しかもカトリック教徒で王位の正当性を神に求めるルイ16世がいったいなぜ、英国に反旗を翻した植民地のアメリカ人を支援したのだろうか?多くの歴史家は、イギリスに対する復讐心を挙げる。七年戦争でさんざんな目に遭ったフランスは、この戦争の終結(1763年)とともにインドにおける重要な権益ばかりか、北米における領土の大半も失ってしまった。したがって1775年に始まったアメリカのイギリス植民地13州の反乱は、イギリスに雪辱を果たす好機だとフランス国内で受け止められた。しかし、ルイ16世の動機はそれだけではなかった。

当時ルイ16世は21歳。百科全書派も含めた啓蒙思想家の著作を多く読み、伝統を重んじるのと同じくらいに近代思想に惹かれていた。ルイ16世の治世の失敗を説明するのに「彼は徹底した専制君主でもなければ、徹底した開明君主でもなかった」と語られることが多いが、ルイ16世は十分に開明的だった。即位直後、人権を尊重する施策を次々に打ち出して労働賦役、拷問、農奴制を廃止した。後年も、三部会において奴隷制度廃止に賛同し、アフリカ人奴隷の苦しみを告発する戯曲を書いた女性革命かオランプ・ド・グージェに称えられた。高利貸しを抑制し、庶民を助けるために公営質屋を創設した。第1回ジュネ―ヴ条約に先立つこと100年、軍隊病院に対して敵の傷病兵も味方と同等に手当てするように命じた。

 しかし歴史は恩知らずだ。アメリカ独立戦争の勝利はフランスにとって「ピュロスの勝利」(割の合わない勝利)であり、理想主義に燃えるフランスの若い君主の凋落を引き起こし、君主が永続を図るべきアンシャン・レジームの崩壊を早めた。1789年4月30日にアメリカの初代大統領ジョージ・ワシントンが就任。アメリカ独立革命の終わりと成就を象徴するこの出来事からたった2か月半後、フランス革命が勃発する。

ジョン・トランブル「コーンウォリスの降伏」

トマス・ゲインズバラ「チャールズ・コーンウォリス」ナショナル・ポートレート・ギャラリー

ヨークタウンの戦い

「ヨークタウンの前のワシントン」

独立戦争の主要な戦場

ジョン・スマート「ヘンリー・クリントン」

パリ条約(1783年)後の北アメリカ世界

ジョゼフ・デュプレシ「ルイ16世」ヴェルサイユ宮殿

ギルバート・ステュアート「ジョージ・ワシントン大統領」メトロポリタン美術館

ラシュモア山にある四人の大統領の彫像

(左から右へ) ジョージ・ワシントン, トーマス・ジェファーソン, セオドア・ルーズベルト,       エイブラハム・リンカーン

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