ヨーロッパの夏空の下14 ウィーン美術史美術館⑥ルーカス・クラナッハ「ユディトとホロフェルネス」
ルーカス・クラナッハ「ユディトとホロフェルネス」もなかなか刺激的な作品。最初にこのテーマを知ったのはフィレンツエのシニョーリア広場。そこで見たドナテッロ作のブロンズ像「ユディトとホロフェルネス」(レプリカ。オリジナルはヴェッキオ宮殿内)。ユーディットが泥酔して眠っている敵軍の将ホロフェルネスの首をはねようとしている瞬間が造形化されている。チェッリーニ「ペルセウス」、ジャンボローニャ「サビニの女たちの略奪」とともに、溢れかえる暴力・殺害表現に花の都フィレンツェ・ルネッサンスのイメージを再考させられたことを覚えている。
ところで「ユディトとホロフェルネス」の物語は、旧約聖書外典の『ユディト記』(ユダヤ教とプロテスタントでは外典として扱い、カトリック教会と正教会では旧約聖書に加えている)に登場(1771年、15歳のモーツァルトはオラトリオ「解放されたベトゥーリア」を作曲している)。こんなストーリーだ。
アッシリア王ネブカドネツァル(これは史実とは異なる)が、自らに対して協力的でなかった諸地域に討伐のための軍隊を差し向ける。そこでユダヤにはホロフェルネスが派遣され、彼はベトリアという町を囲む。水源をたたれたベトリアでは降伏を決意するが、美しく魅力的で強い信仰心を持っていた寡婦ユディトが一計を案じる。彼女はこれ以上ないほど着飾り、一人の侍女とともに武器も持たずに(信仰心という武器だけ携えて)敵のホロフェルネスの陣営に忍び込み、泥酔して眠っていたホロフェルネスの首を彼の短剣で切り落とした。こうして司令官を失ったアッシリアの軍勢は敗走した。 この話の核心はユダヤの危機が一人の信仰心熱き女性、つまり神の力で救われたことだろう。様々な画家がとりあげた。同じく信仰の力で巨人ゴリアテを倒したダヴィデ同様、首を切り落とす直前(ドナテッロ)、切り落としている最中(カラヴァッジョ)、切り落とした後(ミケランジェロ、ジョルジョーネ、ルーカス・クラナッハ、クリムト)。ユディトの表情も様々。クリムト作品(「ユーディットⅠ」)など、ファム・ファタル(男を惑わす宿命の女)のそれだ。個人的には、ジョルジョーネ作品が信仰心の力でか弱き女性が敵軍の将を倒したという物語の本質を最もよく表しているように感じる。
(カラヴァッジョ「ホロフェルネスの首を斬るユーディット」バルベリーニ宮殿)
(ルーカス・クラーナハ「ホロフェルネスの首を持つユーディット」ウィーン美術史美術館)
(ジョルジョーネ「ユーディット」エルミタージュ美術館)
(クリムト「ユーディット」ベルヴェデーレ宮殿)
(ドナテッロ「ユーディットとホロフェルネス」フィレンツェ ヴェッキオ宮殿)
(ミケランジェロ「ユーディットとホロフェルネス」システィーナ礼拝堂天井画)
0コメント