ギリシア神話の支配者8 ゼウス③三番目の妻ヘラ

 ヘラの妻と言えば何と言っても有名なのはヘラ。ゼウスの姉であり、オリュンポス女神の最高神。ギリシア世界各地で崇拝され、南イタリアでもアグリジェントやパエストゥムのヘラ神殿は世界遺産にも指定されている見事な神殿だ。ヘラは花嫁、結婚、母性の守護神。「ジューン・ブライド」(6月の花嫁)も彼女に由来する。ヘラのローマ神話名はユノ-。英語名はジュノー。英語の「ジューン」(6月)はヘラから来ているのだ。だから、結婚の守護神ヘラに守られている6月の花嫁は幸せになれるというわけだ。

 しかし、ヘラのイメージというと、ゼウスの浮気に苦しみ、激しい嫉妬の炎を燃やす姿。もちろん、ヘラがそのように嫉妬深かったのは、彼女が結婚と妻の地位の守り神だったため。そのため、ヘラ自身は貞操観念が強く、ゼウス以外の男性と交わりを持つことは決してなかった。ただ、不思議なのは、本来ならば浮気をした当事者を責めるべきにもかかわらず、ヘラの怒りの矛先はゼウスではなく、関係を持った女神や女性、その子どもたちに向いてしまうこと。ゼウスが交わった相手に責められる点など皆無といっていいにもかかわらずだ。なにしろ、ゼウスは変幻自在に姿を変えられる。自分が交わりたいと思った相手に、相手が油断してしまうあらゆる姿に変身して近づく。

 例えば、ダナエの場合。ダナエはアルゴスの王アクリシオスのひとり娘。子どもはこのダナエだけだった。世継ぎの事を気にかけた王は神託をうかがいに行く。そこで恐るべき神託が下される。 「ダナエからは息子が生まれる。その子はやがて祖父であるお前を殺すだろう」  孫が男児であれば王位継承は可能。しかし、自分が殺されるのは避けたい。神託に恐れおののいたアクリシオスは、王宮に青銅でできた密室をもうけて娘ダナエを閉じ込めてしまう。警備は厳重で、異性どころか女性さえも近づけないほどだった。しかし、アクリシオスがどんなに厳重にダナエを隔離しようとゼウスには通じない。あるとき、青銅の部屋で退屈な日々を過ごしていたダナエは、、窓の外で雨が降り出したのに気付く。乾燥のはげしいアルゴス地方。珍しく降り出した雨を見ようと窓のそばまで近づくと、驚くことにその雨は黄金色に輝いていた。その美しい光景に見とれるダナエ。しかし彼女の心を奪った黄金の雨の正体はゼウス。こうしてゼウスはダナエと関係を結んだ。

 アルテミスに仕えていたカリストの場合も驚く手口でゼウスは近づく。カリストは、身を飾ることや色恋にはまるで興味を示さず、処女神アルテミスの従者として処女を誓い、狩りに明け暮れる生活をしていた。 しかしある日、その美しさゆえにゼウスに見初められる。ゼウスは何とカリストの女主人アルテミスに変身して近づいたのだ。これでは、カリストは逃げようがない。

 ダナエの場合にしろカリストの場合にしろ女性(女神)の側に落ち度など全くない。それでも、彼女やその子供たちは様々な迫害を受けることになる。

 (ティツィアーノ「ダナエ」プラド美術館)

(クリムト「ダナエ」)

(ブーシェ「ユピテルとカリスト」プーシキン美術館)

(「バルベリーニのヘラ」 ヴァチカン美術館)

(アグリジェント「ヘラ神殿」)

(パエストゥム「ヘラ神殿」)

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