ギリシア神話の支配者4 ガイア④

 ゼウスは兄姉を率いてオリュンポス山に立てこもる。ここからゼウスを頂点とする一団が「オリュンポス神族」と呼ばれるようになる。一方、ゼウス反旗の報を受け、クロノスは自分の兄弟であるティタン神族を集結させる。ティタン神族は、男神6柱、女神6柱からなるが、さらに彼らは姉妹やニンフとの間に多くの子どもをもうけており、6柱しかないゼウスたちに勝ち目はないかと思われた。しかし、そこにティタン神族から離反する女神が現れた。オケアノスとテテュスの娘でオケアニデス(3000人の水のニンフ)の長姉ステュクスだ。彼女はニケ(勝利の女神)ら4人の子どもも連れていた。またテミス(後にゼウスの二番目の妻になる)も二人の息子とともに、ゼウスに協力した。  ここまでギリシア神話を見てきて興味深いことがある。ガイアは息子クロノスに夫ウラノスの支配権を奪わせた。さらにガイアは、子どもたちを次々に飲み込んだ夫クロノスを見捨てたレアに助言、協力してゼウスに反旗を翻させた。ステュクスもテミスも子どもとともにティタン神族を裏切り、夫を捨てて参戦した。ここには当時の女性の置かれていた立場が反映されているようだ。本来、ギリシア人は強い祖先信仰を持っていた。しかしポリス間の戦いが激化し、女性の略奪が正当化されるようになる中で、そのような信仰は急速に失われていく。戦争に巻き込まれ、略奪された女性は、心ならずも敵の男の子どもを産むことになる。女たちが夫を憎みながら子どもを育てて行けばどうなるか。自分や子どもを、敵だった夫の家族と思う意識は薄くなるのは当然だろう。場合によっては、自分の子どもを夫や夫の一族への復讐の道具に使うこともあっただろう。ギリシア神話に「息子による父への復讐」というテーマが多くみられるのも当然なのだ。

 話を戻そう。オリュンポス神族とティタン神族の戦い「ティタノマキア」は10年続いたが決着はつかない。この膠着状態を解いたのはまたしてもガイア。父ウラノスによって冥界タルタロスに閉じ込められ、兄弟クロノスからも冷遇されたキュプロクスとヘカトンケイルを救出せよ、とゼウスにアドバイスしたのだ。ゼウスはすぐにポセイドンとハデスを連れて冥界まで降りて行き彼らを救出。恩義を感じたキュプロクスとヘカトンケイル(系図上はティタン神族の兄弟)はゼウスの味方になることを誓う。鍛冶の名手でもあったキュプロクスは、ゼウスに雷(最強の武器「ケラウノス」。雷霆)、ポセイドンには三叉の戟(ほこ。「トリアイナ」=「トライデント」)、ハデスにはかぶると姿が見えなくなる兜(後にペルセウスに貸与されメドゥーサ退治にも貢献)を贈った。これらの武器により、ゼウスの軍は目ざましい戦いを繰り広げる。ゼウスの雷によって打たれ、焼かれ、目が見えなくなったティタンの神々に、今度はヘカトンケイルたちが容赦なく襲いかかる。合わせて300本にもなる腕を使って巨石を投げ続け、下敷きになったティタンたちの身動きを封じ込めていった。そして、このゼウスの雷攻撃と巨石攻撃に苦しめられたティタン神族はついに降参する。

 この時点で勝負は決したが、ゼウスは容赦しなかった。ティタンたちを縛り上げ、冥界タルタロスに閉じ込めてしまったのだ。こうしてゼウスの支配が確立したかと思われた。しかしそうではなかった。ゼウスが完全な支配者となるにはさらなる強力な敵との戦いに勝利する必要があった。そしてその敵を送り込んだのはあのガイアだったのである。なぜか。ゼウスがティタンたちをタルタロスに幽閉したことがガイアを激怒させたのだ。ガイアは、以前にウラノスとクロノスにしたように、ゼウスにも手に入れた世界の支配者の地位を失わせようとする。そしてそのため、次々に恐ろしい怪物の子どもたちを産んでゼウスと戦わせた。

 最初はギガンテス(巨人族)。かつてクロノスが父ウラノスを去勢したとき、血がほとばしり大地に浸透し、それによってガイアは妊娠。長い年月をかけていろいろな子を産んだが、ギガンテスもその子どもたち。ギガンテスは巨大な体と怪力を持ち、脚は二本とも大蛇の形をした怪物。火のついた大木や山のような巨岩を投げつけてくるギガンテスをゼウスたちは打ち破ることができない。神託により、「ギガンテスは不死ではないが神々には殺されない。人間によってのみ打ち倒される」と告げられていたからだ。そこでゼウスは人間の女性(アルクメネ)と交わって子どもをもうける。それがギリシア神話随一の英雄ヘラクレス。弓の名手ヘラクレスは、毒矢を放って敵を倒し勝利を決定づける役割を果たした。こうしてゼウスはギガンテスに勝利。しかし、ガイアはまだあきらめない。

 (ジュリオ・ ロマーロ「巨人族の没落」マントヴァ テ宮殿)

破壊された神殿の下敷きになる巨人族

(ジュリオ・ ロマーロ「巨人族の没落」マントヴァ テ宮殿)

ケラウノスでギガンテスの神殿を破壊するゼウス


(「スミルナのゼウス」ルーヴル美術館)

(コルネリス・ファン・ハールレム「ティタンの墜落」コペンハーゲン国立美術)

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