『レ・ミゼラブル』⑧ジャン・ヴァルジャンとコゼット2

 パリに着いたジャン・ヴァルジャンがコゼットと一緒に生活を始めたのはオピタル大通りの「ゴルボー屋敷」。そのあたりは「パリの大通りでありながら、夜は森よりも不気味で昼は墓地よりも陰気な場所だった」が、その屋敷はその陰惨な界隈でもひときわ荒廃の目につく建物だった。それでも、テナルディエ一家のもとでの過酷な生活から解放されたコゼットは朝目を覚ますとテナルディエのおかみさんにこき使われずにすむ解放感を味わう。

「だしぬけに彼女は叫んだ。『なんてきれいなとこでしょう、ここは!』

そこはひどいあばら家だった。だが、コゼットは自由を感じ取っていた。

・・・コゼットは、さっぱりようすがわからないのも気にならず、人形とおじいさんにはさまれて、言いようのないほど仕合せだった。」

 だが、ジャン・ヴァルジャンの幸福感はそれ以上だった。

「コゼットに会って、ひき取り、つれて来て、自由にしてやった時、彼は愛情が動き出すのを感じた。心のなかにひそんでいた情熱と愛情が一度に目覚めて、この子の方におしよせていった。彼女が眠っているベッドのそばに行くと、うれしくてぞくぞくした。まるで、母親みたいに、はらわたをしぼられるような気持ちを味わったが、それがなんだかわからなかった。なぜなら、愛し始めたものの心に生まれるこのけだかくふしぎな感動は、たしかにあいまいで、しかもとてもやさしいものだから。

 ういういしくよみがえった、あわれな老いたる心よ!

 ただ、彼は55で、コゼットは8つだったから、生涯に味わったかもしれないすべての愛情が一つにとけあって、ここでは、えもいわれぬほのかな光のようなものになったのだ。

 こうした白い光明が生まれるのを味わったのは二度目のことだった。司教は、彼の心の地平線に徳の朝日をのぼらせてくれた。コゼットは、この心に愛の朝日をのぼらせたのだ。」

 こうしてジャン・ヴァルジャンとコゼットという、「年は離れているが、同じ悲しい身の上の、よるべないふたりの人間が、運命の手でとつぜん結ばれ、さからいがたい力でつながれたのだ。」

 しかし、いずれコゼットも成長し、女になり、恋もする。ジャン・ヴァルジャンは老いていく。コゼットの恋人の存在を知った時、ジャン・ヴァルジャンはどんな思いに至るのだろうか。

 (ゴルボー屋敷前の通り TV「レ・ミゼラブル」1982年)

(ゴルボー屋敷)

(ジャン・ヴァルジャンを追うジャヴェール警部)

(乞食に施しをするジャン・ヴァルジャン)

 貧しい身なりで施しをしたため「施しを乞食」として目立ってしまいジャヴェールに目をつけられてしまう

(リュクサンブール公園を散歩するジャン・ヴァルジャンとコゼット)美しく成長したコゼット

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