「いつでも同じ人間であること」

 日本において最も知名度の高いフランス人と言えばナポレオン。人類史上、最も頻繁に語られてきた人物の一人だ。フランス人のナポレオン信仰は200年以上経た今でも、ゆるぎなく定着しているらしい。「フランス革命を終わらせた」「現在でも有効な多くの制度を創設した」「不出世の英雄である」などが、その人気の理由としてあげられる。しかし、1998年に出版されてフランスで話題になった『ナポレオンのいかさま』(ロジェ・カラティーニ)は、ナポレオンについて「英雄の中身はいかさま師で、軍人としては戦争犯罪人だ」と決めつけている。おそらくナポレオンに対する好き、嫌いは、彼について知れば知るほど分かれるだろう。しかし、教えられることは山ほどある。その並外れた人心掌握術、状況判断力、決断力、統率力。人間探求の専門家の作家・城山三郎は、統率者ナポレオンの人間像を分析・考察した『彼も人の子ナポレオン』という作品を残し、人間ナポレオンのキーワードを「幼児性と率いる身」とした。また、ナポレオンとの出会いを「彼の生涯は戦いから戦いへの、そして勝利から勝利への半神の歩みだった。彼はじつに空前絶後の人物だ」と回想したゲーテは、エッカーマンにこう語っている。

「ことにナポレオンが偉大だった点は、いつでも同じ人間であったということだよ。戦闘の前だろうと、戦闘のさなかだろうと、勝利の後だろうと、彼はつねに断固としてたじろがず、つねに、何をなすべきかをはっきりわきまえていて、彼は、つねに自分にふさわしい環境に身を置き、いついかなる瞬間、いかなる状況に臨んでも、それに対処できた。」

 われわれの夢想をかき立ててやまない人類史上稀有の英雄ナポレオン。学ぶものは多そうだ 。

(エルフルトでナポレオンに謁見するゲーテ)

(ジョセフ・カール・シュティーラー「ゲーテ」)

(1804年 アングル「第一執政ボナパルト」)

(1812年 ダヴィッド 「書斎のナポレオン」)

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