ローマの魔力とベルニーニ
退職まで残り102日。自由な時間ができたら、時間に追われずゆっくり、じっくり歩きたい街がいくつかある。ティツィアーノやティントレットのヴェネツィア、モーツァルトやベートーヴェンのウィーン。しかし、自分の中で断トツ一番はローマ。古代ギリシア文化と古代ローマ文化の違いを皮膚感覚の次元で把握したい、ヴァチカン美術館の作品群を気が済むまで眺めたい、下町テスタッチョで安くて美味しい「カルボナーラ」(パンチェッタではなくグアンチャーレ入りのやつ)やペコリーノ・ロマーノ山盛りの「カチョ・エ・ペペ」を味わいたい。しかし、それら以上にローマに引き付けられるのは、そこにカラヴァッジョとベルニーニの作品がたっぷりあるから。刺激的という意味では、ベルニーニ。これが本当に宗教芸術なのか、と衝撃を受けた。それは、「バロック芸術の最高峰」と言われる「聖女テレサの法悦 」(サンタ・マリア・デラ・ヴィットーリオ教会コロナロ礼拝堂)と「福者ルドヴィーカ・アルベルトーニ」(サン・フランチェスコ・ア・リーパ教会)。前者は、聖女テレサが、心臓に神の愛の矢を射こまれる痛みと喜びから陥った恍惚状態の表現。後者は、死の床に横たわるルドヴィカの、永遠の生命を得る精神の喜びと肉体の苦悩に耐える苦しみの合一を表現。男女の交わりのエクスタシーと何が違うんだろう、と思ってしまうのは、自分に信仰がないせいだろうか。ただ、自分のような俗人にも不思議といやらしさは感じさせない。おそるべきキリスト教芸術の懐の深さ。バロックは、ルターに始まる宗教改革に対抗して、カトリックが巻き返しを図る中で生まれた。激しい宗教弾圧を生んだ一方で、こんな作品も生み出したのだ。ただ、ローマでしかこんな作品は生まれなかったように思う。どこまでも人間臭い街ローマ。ヴィーナスのような魔力を秘めている。
「聖女テレサの法悦 」(サンタ・マリア・デラ・ヴィットーリオ教会コロナロ礼拝堂)
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