ヴィーナスの恐ろしさ②
アポロンの双子の姉アルテミス(ディアナ)は、ヴィーナスとは正反対の処女神。処女の誓いを立てた者だけをそばに置き、狩りとその合間の水浴を楽しみにしている。男など汚らわしいと感じる潔癖症。当然のように、その美には冷たさ、厳格さが伴っている。自分の裸体を不注意で目撃してしまった猟師のアクタイオンを鹿の姿に変え、彼が引き連れていた猟犬に噛み殺させる。なんともサディスティックな性格。こんなアルテミスを崇拝している若者がいた。アテネの英雄テセウスとアンティオペの息子ヒッポリュトスだ。自分と真逆な女神を崇めるヒッポリュトスにヴィーナスは不快感を覚える。そして驚くべき行動に出る。。アンティオペの死後、テセウスが再婚したパイドラに、義理の息子ヒポリュトスへの恋心を植え付けたのだ。悩み苦しんだ末、パイドラは乳母を通して自分の想いをヒッポリュトスに伝える。処女神アルテミスの崇拝者が受け入れるわけがない。「汚らわしい!」と激しく拒絶。絶望したパイドラは、なんと「ヒッポリュトスが自分を誘惑した」と夫テセウスに伝え、そして自殺。テセウスもテセウスだ。ヒッポリュトスの言い分も聞かず、パイドラの言葉を鵜呑みにし、彼をを追放しただけでなく、海神ポセイドンに彼の死を祈願。馬に乗っていたヒッポリュトスはポセイドンがよこした怪獣の出現に驚いた馬から落ちて死亡。ヴィーナスが浮かび上がらせる人間の愚かさ、哀しさ。それにしてもヴィーナスは恐ろしい。
(上から、チェザーレ「ディアナとアクタイオン」、ガゼルタ宮「ディアナとアクタイオンの噴水」、カバネル「フェードル」、ジョゼフ・デジレ・クール「ヒポリュトスの死」)
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