ヴィーナスの魔力①
アポロンから妻ヴィーナスと軍神アレスの不倫を知らされたヘパイストス(ウルカヌス)。いくら問いただしても、知らぬ存ぜぬでしらばっくれるヴィーナス。そこは鍛冶の神ヘパイストス。得意の物づくり(人類最初の女性パンドラの肉体を創ったのもこのヘパイストス)の才能を発揮し、目に見えない細い網をベッドに仕掛ける。二人が事に及ぼうとベッドインしたとたんこの網に絡まれて身動き取れなくなるという寸法。出かけるふりをしてアレスがやってくるのを密かに待つヘパイストス。夫が留守と思ってヴィーナスのもとにアレスが姿をあらわす。身も心も熱く燃え上がった二人がベッドインしたとたん網に絡まれる。その場面を描いたのは女性を知り尽くした画家ブーシェ(こんなブーシェに女性の肌のぬくもり、触感まで表現したルノワールが夢中になったのは当然だ)。アレスが見せる軍神らしからぬ困惑の表情。一方ヴィーナスは?不倫がばれたことなどおかまいましにうっとりと恍惚状態。没我の彼女は、愛の喜びにすべてを忘れてしまっている。では、不倫現場を抑えるという初期の目的を達したヘパイストスは?妻の不倫に怒るどころか、自分は味わったことがない、見たことすらない(その醜さ故、夫婦とはいえ妻から遠ざけられていた)妻のエクスタシー状態の肢体にうっとり。恐るべしヴィーナス。
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