「ギリシア神話と名画」3 ゼウスの支配権確立(2)ゼウスVSガイア
ゼウスは兄姉を率いてオリュンポス山に立てこもる。ここからゼウスを頂点とする一団が「オリュンポス神族」と呼ばれるようになる。一方、ゼウス反旗の報を受け、クロノスは自分の兄弟であるティタン神族を集結させる。ティタン神族は、男神6柱、女神6柱からなるが、さらに彼らは姉妹やニンフとの間に多くの子どもをもうけており、6柱しかないゼウスたちに勝ち目はないかと思われたが、オリュンポス神族とティタン神族の戦い「ティタノマキア」は10年続き、決着はつかない。この膠着状態を解いたのはまたしてもガイア。父ウラノスによって冥界タルタロスに閉じ込められ、兄弟クロノスからも冷遇されたキュプロクスとヘカトンケイルを救出せよ、とゼウスにアドバイスしたのだ。ゼウスはすぐにポセイドンとハデスを連れて冥界まで降りて行き彼らを救出。恩義を感じたキュプロクスとヘカトンケイル(系図上はティタン神族の兄弟)はゼウスの味方になることを誓う。鍛冶の名手でもあったキュプロクスは、ゼウスに雷(最強の武器「ケラウノス」。雷霆)、ポセイドンには三叉の戟(ほこ。「トリアイナ」=「トライデント」)、ハデスにはかぶると姿が見えなくなる兜を贈った。これらの武器により、ゼウスの軍は目ざましい戦いを繰り広げる。ゼウスの雷によって打たれ、焼かれ、目が見えなくなったティタンの神々に、今度はヘカトンケイルたちが容赦なく襲いかかる。合わせて300本にもなる腕を使って巨石を投げ続け、下敷きになったティタンたちの身動きを封じ込めていった。そして、このゼウスの雷攻撃と巨石攻撃に苦しめられたティタン神族はついに降参する。
この時点で勝負は決したが、ゼウスは容赦しなかった。ティタンたちを縛り上げ、冥界タルタロスに閉じ込めてしまったのだ。このことがガイアを激怒させた。ガイアは、以前にウラノスとクロノスにしたように、ゼウスにも手に入れた世界の支配者の地位を失わせようとする。そしてそのため、次々に恐ろしい怪物の子どもたちを産んでゼウスと戦わせた。最初はギガンテス(巨人族)。かつてクロノスが父ウラノスを去勢したとき、血がほとばしり大地に浸透し、それによってガイアは妊娠。長い年月をかけていろいろな子を産んだが、ギガンテスもその子どもたち。ギガンテスは巨大な体と怪力を持ち、脚は二本とも大蛇の形をした怪物。火のついた大木や山のような巨岩を投げつけてくるギガンテスをゼウスたちは打ち破ることができない。神託により、「ギガンテスは不死ではないが神々には殺されない。人間によってのみ打ち倒される」と告げられていたからだ。そこでゼウスは人間の女性(アルクメネ)と交わって子どもをもうける。それがギリシア神話随一の英雄ヘラクレス。弓の名手ヘラクレスは、毒矢を放って敵を倒し勝利を決定づける役割を果たした。こうしてゼウスはギガンテスに勝利。しかし、ガイアはまだあきらめない。
ガイアは最後の手段として、冥界タルタロスと交わり、最強、最悪の怪物テュポンを産み出す。この怪物、立つと頭が天に触れ、両腕を広げると一方の手は東の端、もう一方の手は西の端に届くほど巨大。上半身は人間、しかし肩からは蛇の頭が百本生え、腰から下はとぐろを巻く大蛇の姿で全身に羽が生えている。このテュポンが火を噴き、燃えさかる巨岩を投げながら天に向かって突進してくると、ゼウス以外の神々はみな肝を潰してオリュンポスから逃げ出してしまう。単身でこの怪物と戦わざるを得なくなったゼウス。一度は手足の腱を切り取られ、岩屋に閉じ込められ、絶体絶命の窮地に陥ったが、大泥棒の才能を持ったヘルメスに救い出される。そして反撃を開始し、最強の武器ケラウノス(雷霆)でテュポンを追いつめる。最後は、シチリア島であるものを投げつけて身動きできなくさせた。それがエトナ山。もちろんテュポンは神なので不死。死ぬことなくずっと火を吐き続けている。そのため、エトナ山は今も火と溶岩を噴出しているのだと言われている。
こうして、ガイアが最後に産んだ最強の怪物テュポンも倒されたことで、ガイアもついに諦めた。ゼウスは祖父のウラノスや父のクロノスと違い、ガイアでも交代させることのできない神々の王であることが明らかとなったのである。 それまで世界を実際に支配していたのはガイア。ウラノスもクロノスもガイアが支配者の地位につけ、ガイアの意に逆らったためガイアによって支配者の地位を奪われた。しかし、この繰り返しはゼウスの勝利によってはっきり終止符が打たれた。ガイアもゼウスから神々の王の地位を奪うことが不可能であることを覚り、彼の無敵の力を認めた。こうしてゼウスはオリュンポスの神々の王として、世界を永遠に支配し続けることになった。
コルネリス・ファン・ハールレム「ティタンの墜落」コペンハーゲン国立美術館
雲の切れ間から、次々と敗れ去ったティタンたちが落とされていく様子が描かれている。地上に落ちたティタンたちにはもはや戦う気力は残っていない。この後、彼らはゼウスによってさらに冥界(タルタロス)に閉じ込められる。
ジュリオ・ロマーロ「巨人族の没落」マントヴァ テ宮殿
天空から落とされ、岩や神殿の柱に押しつぶされているギガンテスたち。この主題は17~18世紀にしばしば取り上げられ、王侯貴族の宮殿の壁に装飾画としてよく描かれた。この絵もイタリアのゴンザーガ侯の宮殿に描かれた。神々の王たるゼウスの勝利を描くことで、絶対君主の権力をあらわしたとされる。
ジュリオ・ロマーロ「巨人族の没落」マントヴァ テ宮殿
最強の武器「ケラウノス」で攻撃するゼウス
同上(部分)
ブールデル「弓を引くヘラクレス」オルセー美術館
ゼウスとテュポンの戦い
「オトリコーリのゼウス」ヴァチカン美術館
「雷霆を振り上げるゼウス」ルーヴル美術館
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