入浴文化比較①

  ヨーロッパで滞在するホテルを選ぶとき、条件とするのが静かなこと(大通りに面していない)、ツインルーム(2ベッド)、そしてバスタブ付きであること。一日動き回った後、たっぷりの湯につかることと車の音に煩わされない安眠は、旅行中に疲労を蓄積させないで動き続ける不可欠の要素。しかし、4星クラスのホテルでも、シャワーだけの部屋が少なくない。特にビーチリゾートではそうだ。そもそも、現代のヨーロッパ人の間に、一日の仕事の後に浴槽に張った湯にどっぷり身体全体を沈ませる文化はない。パリでは、これまで何度も一般人の住まいに「民泊」した。バスタブ付きのアパートを探すのにも苦労するが、たとえ付いていても十分お湯を張らないうちに、熱いお湯が出なくなることを何度も体験した。モンマルトルの丘の上の、窓からはユトリロの絵のような階段のある風景が広がるアパート。部屋の中は日本趣味の調度品に囲まれたサンパティックなマダムの家を借りたことがあった。気に入ったので2年続けて借りた。しかし、浴室の蛇口から出るお湯の温度は、設定温度を最高にしても十分熱くはならず、湯量も少ないので、鍋でお湯を沸かし台所から浴槽に何度も運んだ。パリは夏といえども最低気温は20度を切ることが多いし、天候が崩れると日中でもウィンドブレーカーは必携。一日の終わりは、湯につかって心身をくつろがせたい。

 ところで、今の日本人同様、風呂好きだったのは古代ローマ人。兵士たちの出征先でも宿営地に浴場を造った。世界遺産にもなっている「ハドリアヌスの城壁」(イギリス)近くでも浴場跡が発見されているし、アフリカでも征服した地には娯楽施設として円形闘技場、劇場とともに大浴場を建設した。アルジェリアの「ティムガッド遺跡」(これも世界遺産)には4つの浴場が設置されていた。当然、豊富な水が必要。そのために何十キロも離れた水源から水を引き、そのために水道橋も作った。そこまでしてでも湯につかることの快楽が何にも代えがたいこと知っていたのだ。「ポン・デュ・ガール」(フランス)や「セゴビア水道橋」(スペイン)はそのことを雄弁に語っている。

(「ポン・デュ・ガール」 南フランス)

(「セゴビア水道橋」 スペイン)

(「ハドリアヌスの城壁」 イギリス)

(「ハドリアヌスの城壁」近くの要塞にもうけられた浴場跡)

(「ティムガッド遺跡」アルジェリア)

(「ティムガッド遺跡」に4つある浴場のひとつ)


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